どんな妻になろうとしているのか?

江戸時代までの上流家庭では、娘が嫁ぐ際に、あるお経を必ず持たせたそうです。

それが『玉耶経(ぎゃくやきょう)』という経典で、そこには、次のような話が書かれています。

ある長者が、ひとり息子の妻として「世にも美しい」と評判の玉耶姫(ぎょくやひめ)を迎えました。

しかし、妻の役目は果たさず、夫や両親の言うことも聞きません。

困り果てた両親が、ブッダになんとかしてほしいと頼みました。

するとブッダは、玉耶姫に向かって、
「玉耶姫よ、いかに顔や姿が美しくとも、心の汚れている者は醜い。黒い髪もやがて白くなり、真珠のような白い歯も抜け落ちてゆく。顔にはシワができ、手足は次第に不自由になってくる。そのような肉体に何の誇りが持てようか。それよりも心の美しい女性になって、誰からも慕われることこそ、大切とは思わぬか」

と諭した上で、「世の中には七種の妻がある」という話をしました。

第一種……人殺しのような妻。夫に対して敬愛の念がなく、他の男に気移りする
第二種……盗人のような妻。夫の仕事を理解せず、収入を浪費し、虚栄に走る
第三種……主人のような妻。家事を顧みず、怠け、夫に当たり散らす
第四種……母のような妻。夫に細やかな愛情を抱き、夫の収入を大切にする
第五種……妹のような妻。夫に誠意を持って接し、姉妹に対するような愛情をもつ
第六種……友人のような妻。久しぶりに会う友に対するように、正しく夫を敬う
第七種……家政婦のような妻。怒りや恨みを抱かず、夫を大切にしようと努力する

そしてブッダが、「あなたは、このうちどの種の妻になろうとするのか?」と尋ねたところ、玉耶姫はわが身を大いに恥じ、心から悔い改め、後世、「妻の鑑(かがみ)」と称賛されるようになったそうです。