◆地図よりコンパス
◇地図はもはや不要である

 私たちは地図を捨てて、コンパスを取らなければいけない。その理由はシンプルだ。ますます予測不能になっていく世界において、地図は意味をなさないからである。

 地図は、その土地についての詳細な知識と最適経路の存在を示すものだ。一方、コンパスははるかに柔軟性の高いツールである。コンパスを正しく使えば、別の道を探求したり、回り道をうまくつかったり、予想外の宝物を見つけたりできるようになるかもしれない。

◇スクラッチが描き出すもの

 抽象的な思考は、世界の航行に使えるコンパスである。これを子ども向けに楽しくできるようにしたものがある。2007年にメディアラボから生まれたスクラッチ(Scratch)というツールだ。スクラッチのコマンドは単純な言葉で書かれており、明るい色のブロックに分類されている。それをレゴのブロックのようにカチッとはめることで、プログラムが動くようになっている。伝統的なコードは一行もない。とにかく直感的でわかりやすいのが特徴だ。

 それに加え、自分たちが作ったもののソースコードを共有するコミュニティがあることも、スクラッチの人気を支えている。コミュニティはすさまじい力を発揮する。偉大な作品はコピーされ、そこからリミックスが生まれていく。

 スクラッチは着実に成長を続け、今では大きな存在感を示している。とはいえ、スクラッチの開発者たちは、コードの勉強を通して将来のコンピュータ技師を育てることだけを考えているわけではない。「コーディングの勉強は、自分の考えをまとめ、表現し、共有するのに役立つ――ちょうど作文を学ぶのと同じだ」。

◆安全よりリスク
◇リスクの意味が変わる

 低コストでイノベーションが起こせる環境のなかでは、安全よりもリスクをとったほうが合理的だ。大きく変化する世界で意思決定者に求められるのは、とにかくすばやく動くことである。ソフトウェアやインターネット産業はもとより、これからは製造業、投資、アート、研究の分野でも同様の潮流が生まれてくるだろう。

 安全よりもリスクを取ることは、リスクに目を閉ざすことを意味しない。リスクの高い提案を盲目的に支持する必要はまったくない。しかし、何かを今やることで生じる費用と、何かを先送りにすることで生じる費用を、イノベーターや投資家たちは常に天秤にかけていかなければならない。

◇イノベーションの震源地が中国に?

 中国の深センは、ほぼあらゆる大エレクトロニクスメーカーが製品製造をすることで有名な場所だ。だが、次第に独自の高精度ハイエンド商品を製造する場所へと生まれ変わってきている。

 もともと、深センは山寨(シャンザイ)と呼ばれる安物のインチキブランド――たとえばノキアならぬヌキア、サムスンならぬサムシン――の生産地としても有名だったが、5年ほど前から変化が起きている。オリジナルに肉薄するクオリティになっただけでなく、むしろ上回るようになってきたのだ。

 これは考えてみれば当然である。深センには超高速で超柔軟なサプライチェーンが揃っている。多種多様な製品を少量生産し、需要を見ながら、売れるものを生産すればいい。実際、LGのデュアルSIMの電話や、サムスンの電話にある偽札検出器は、どちらももともと山寨のイノベーションだ。しかもサムスンがそれを発表する頃には、山寨はさらなるイノベーションを加えている。

 大企業の場合、市場の需要に対応するのに何ヵ月もかかるし、製品リリースをする前に、大量の国際特許の使用権について交渉が必要だ。しかし山寨にそれは必要ない。その結果、山寨は2009年に世界の携帯電話市場の20パーセントを占め、他のエレクトロニクスジャンルにも手を伸ばしている。闇市場財の世界市場を国に置きかえれば、そのGDPは10兆ドルで世界第2位になる。リスクを取ると儲かるのだ。