暗闇の中でプレゼンできますか?
私が、若い書き手の方向けの講演で、よく話すことがあります。
「読む人をイメージしないで書く」ということは、真っ暗闇の中、誰が席に座っているのかまったくわからない中で、プレゼンするようなものだ、と。
誰が座っているのかわからない。
高齢者かもしれない。小学生かもしれない。
男性が多いか、女性だけなのか。
そんな空間に向けて、何かを話さなければいけない状況を想像してみてください。
ほとんど恐怖でしょう。
でも、しばらくして、会場が明るくなった。
どんな人が座っているかが見えてきたとしたら、どうでしょうか。
もし、若い女性がたくさん座っていたら、若い女性向けの話をすればいいのだとわかって、そこで初めて安心して話ができる。
実際に、私が講演をお引き受けする際には、どんな人がお見えになるのか、わかる範囲で出席者の情報を事前にいただきます。そうすれば、ピント外れの素材(ここでは講演で話す内容のことです)を選ばずにすむからです。
文章でも、事情はまったく同じです。
どんな人が読むのか、誰に読んでもらいたいのか。
読者によって、文章の素材は変わるのです。
そして何より、読者をハッキリさせないと、「あれ、これって誰に向けて書いてるんだっけ?」「この内容でいいのかな?」などと悩み始め、その悩みが、執筆スピードをガクンと落とします。
だからこそ、読み手を設定しない段階で絶対に文章を書き始めてはいけないのです。
たとえば、クライアントへ提出する企画提案書を書く場合を考えてみてください。
口頭で何度かやりとりしている窓口担当者に提出する場合は、プロジェクトについて、あまり細かなことを書かなくてもいいかもしれません。
しかし、一度挨拶しただけの、窓口担当者の上司に提出する場合はどうでしょうか。
提案書には、プロジェクトの詳細を簡潔かつ丁寧に示す必要があるでしょうし、相手にとってのメリットを提示したり、時候の挨拶を入れたりする必要があるかもしれません。場合によっては、その上司の考え方の特徴や好み、企画決裁の判断基準を担当者に聞いて、それに沿った内容にしたほうがいいかもしれない。
もっと言えば、一度も会ったことのない社長に提出、ということになったらどうか。
社長向けと担当者向けで、果たして同じ文面で良いのでしょうか?
同じ提案書でも、読む人によって、必要な素材は変わります。
だからこそ、書く前に、素材を集める前に、「誰が読むのか」をハッキリさせておく必要があるのです。
読者を決めるための具体的かつシンプルな方法について、次回、お伝えします。