ネット企業の抗議で公聴会が延期
10月7日に予定されていた、グーグル和解問題についてのアメリカの裁判所における公聴会が延期された模様です。世界各国からよせられた異議申立てを含む意見、グーグルの独占を阻止したいマイクロソフト、アマゾン、ヤフーなどの競合企業の動向などを踏まえて、和解の当事者であった全米作家組合と出版社は、和解案の見直しを求めていました。裁判所はその意見を容れ、公聴会期日の延期を決めたということのようです。
原告側が求めている見直しのポイントは、「外国の権利者への配慮」と「競合他社も利用可能な仕組みの構築」にあるようです。
このグーグル和解案は、前回の連載『「黒船」グーグルが日本に迫るデジタル開国 』でも指摘した通り、集団訴訟とベルヌ条約の効力により、問答無用で全世界の権利者が巻き込まれてしまったという「乱暴」な方法が採られたこと、及び、和解成立後の権利処理機関として、作家や出版社によって運営される版権管理機関(レジストリ)が設立されるが、グーグルは常に優先的に利用者として位置づけられていること、がその特徴として挙げられます。そして批判はもっぱらこの2点に集中したのですが、それは当然と言えるでしょう。
筆者は、グーグル和解案の内容を積極的に評価する立場に立ちますが、批判が集中した2つの問題については反対派、批判勢力の主張にも合理性があると考えますので、それらの点が見直されるのであるならば、歓迎すべきことであろうと思います。
ただ、マイクロソフト、アマゾン、ヤフーらが支援する「オープンブック・アライアンス」が「和解案は葬られた」という声明を発表したことは、いかがなものかという気がします。和解が不成立となれば、グーグルによる「フェアユースの抗弁」を錦の御旗とした無許可スキャニングは継続されることになりかねません。アメリカのローカルルールとでも言うべきフェアユースの主張に基づく無許可利用が、このグーグル図書館プロジェクトの中で一部でも認められることになると、どのような悪影響が生じることになるのか想像もつかないからです。
グーグルの抗弁を全面的に退けて、グーグルが本のスキャンを始めた4年ほど前まで時計の針を戻せるのならよいのですが、実際にスキャンされてデジタルデータ化された数百万冊の「本」の存在を無視することもできません。これだけデジタル環境が普遍的になった現在、著作物は次から次へとデジタル化され、そのデジタル化されたデータは全世界に向けて配信可能な状況でスタンバイをしているのです。デジタル化された「本」の利用のあり方について議論をするということは、「自由」に流通しようとしているデータの行動を制限することに他なりません。