年収800万円を超えると幸福度は上昇しなくなる『幸福の「資本」論』
橘玲著
ダイヤモンド社 定価1500円(税別)

 株式やFXのトレーダー、ウォール街の金融マン、ベンチャー企業の経営者などを思い浮かべるかもしれませんが、じつはもっとも切実なのは貧しいひとたちです。

 彼らは、今月の家賃、子どもの授業料や給食費、電気・ガス・水道などの支払い、あるいは今夜の食費をどのように支払うかを常に考えつづけていなければならず、そのことが大きく幸福度を引き下げるのです。

 このように考えると、なぜ世帯年収1500万円(1人あたりの年収800万円)で限界効用がゼロに近づくかがわかります。

 子どもにじゅうぶんな教育を与え、年にいちどは家族旅行に出かけ、月に1回は夫婦で外食をするのが世間一般の幸福の基準だとすると、1500万円の年収があれば、その幸福を実現するのにお金のことをほとんど気にすることはなくなるでしょう(生活経費をクレジットカードで支払っている場合は、翌月の引落しで銀行口座の残高を確認することもなくなります)。

 そのハードルを越えてしまえば、子どもの習い事を増やしたり、家族旅行を年2回にしたり、外食をミシュラン星付きの高級レストランにしたりしても、幸福感=生活の満足度はそれ以上大きくなりません。お金の限界効用が逓減するというのは、いったんお金から「自由」になると、それ以上収入が増えても幸福度は変わらなくなるということなのです。

 収入だけでなく資産においても限界効用が逓減することがわかっています。10万円の貯金が20万円に増えれば大きな達成感が得られるでしょうが、1000万円が1010万円になったとしてもなんとも思わないでしょう。

 お金と幸福度のアンケート調査によれば、金融資産が1億円を超えると幸福度が増えなくなることが示されています(大竹文雄、白石小百合、筒井義郎編著『日本の幸福度』日本評論社)。この金額も、「お金のことを考えすぎると不幸になる」という法則から説明可能です。

「老後破産」が流行語になったように、少子高齢化が進む日本では多くのひとが定年後の生活に大きな不安を抱いています。これは日本人の幸福度を引き下げる要因になっているのですが、この不安は一定以上の資産を保有することで解消されます。多くのひとにとって、「(日本の財政が破綻して年金が減額されるようなことになっても)自分の老後は安心だ」と思える金額が「資産1億円」なのでしょう。

 このことから、お金と幸福に関する次のようなシンプルな法則が導き出せます。