「発電は需要に応じ、需要のそばで行うべき」――自然エネルギーへのシフト、エネルギーの分散化を唱えた名著『ソフト・エネルギー・パス』。今からおよそ30年前に発表されこの本は、世界のエネルギー学者や経済学者に大きな衝撃と影響をもたらした。著者であるロッキーマウンテン研究所所長のエイモリー・ロビンス博士は、この10月におよそ5年ぶりの著書『Reinventing fire』を発表。「2050年、アメリカは石油や石炭といった地下資源に依存しない社会にシフトする」アイデアを示し、ふたたび世界から大きな注目を集めている。

一方、日本のエコプロダクツ研究の第一人者である東大名誉教授の山本良一氏は、ロビンス博士の説に大きな期待感を示しながら、実現可能性に疑問を投げかける。オバマ政権が提唱しつつも未だ効果を示せていない「グリーンジョブ政策」。その停滞の原因と言われるアメリカの産業構造が、エネルギーシフトでも同様に、“越えられない壁”として横たわるのではないかという懸念である。実現すれば、世界のエネルギー業界のみならず、あらゆる産業に大きな変革をもたらす『Reinventing fire』。どうすれば政治は、産業は、あるいは社会はこのコンセプトを受容し、エネルギーシフトを実現させることができるのか。2人の思いがぶつかり合う。(撮影/三川ゆき江)

太古以来、人間が化石燃料に
依存し続ける構造は変わっていない

エイモリー・B・ロビンス
ロッキーマウンテン研究所の共同創設者・会長・主任研究員。再生可能な資源と環境についての第一人者。OECD、国連といった国際機関、オーストラリア、カナダやイタリア政府などもクライアントに抱え、2009年、タイム誌が特集する「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。『ソフト・エネルギー・パス』『スモール・イズ・プロフィタブル』『ファクター4』など著書多数。

山本 ロビンス博士は、再生可能エネルギーや省エネルギーの世界的な権威として、30年以上にわたりこの分野で活動されていますが、あらためて我々の社会が置かれている現状について、博士がどのように捉えられているか、お聞きしたいと思います。

ロビンス ご存知のとおり、現代社会は完全に、といってよいほど化石燃料によって成り立っています。何百万年も昔、私たちの祖先が、木材などで熾(おこ)した火で食料を調理したことに始まり、中国では千年以上前に、地下1~2キロのところを掘り、天然ガス、あるいは石油を、竹のパイプで汲み上げて利用していました。

 つまり、昔も今もエネルギーを取り巻く構造は何も変わっていません。経済や市場は大規模かつ高度に発展しましたが、それを支えているエネルギーはおよそ近代的とはいい難い、いわば、太古のぬかるみのなれの果てともいえる燃料なのです。