人間の持つ認知は必ず歪む
客観的な「正解」はない

 結局、そうすると人々は自分がもともと持っていた「認知」に近い人々の意見に積極的にアクセスするようになる。

 社会心理学では集団で意見交換すると、自分の考えが極端になりやすくなる、という「集団成極化」という現象が観察されている。自分の意見に近い人々の情報にネットで触れ、時には自分も発言するうちに、自分の意見がどんどん極端になってしまうのだ。

 さらにこの効果は2週間ほど続くこともわかっている。つまり、選挙公示中に自分と認知が近い人たちと意見を交わして一時的に過激な意見を持つ。そしてそれが冷めぬうちに投票日がやってくる。こうして投票行動に反映されるのだ。

 現在の日本は、マスメディアから直接影響を受け、認知形成をする層と、ネットを通じて情報をセレクトする層に分かれていると筆者は考えている。

 そして、前者の層には、マスメディアの「歪み」を知らないまま、思考停止に陥り流される危険性があり、後者の層の多くには、ついつい「耳に心地よい意見」だけに拘泥し、その結果、やはり思考停止に陥る危険性がある。

 上記の「状況の認知」には、客観的な正解はない。人間は誰でも、必ず状況を「歪んで」観ている。バイアスのかからない認知はないのだ。我々はまずそのことを認識すべきだ。

 そうならば、日本をより良くするためにできることは、自分には認知のバイアスがあることを自覚し、無駄かもしれないが、異なる認知の人々に「なぜそんな認知をしているのか」を知るための問いを投げかけ続けるしかない。それは面倒であり、楽しいことではないが、それが民主主義なのだと思う。

 そして選挙では、各政党の政策の良し悪しを判断する前に、その政党が持っている「現状の認知」が何なのかを、きちんと見極めることが大切だろう。掲げる政策がその認知と矛盾するならば、それは「別の理由」があるはずで、その理由によっては政策の実行が不可能になることも少なくないからだ。

(モナッシュ大学マレーシア校 スクールオブビジネス ニューロビジネス分野 准教授 渡部 幹)