ジャンル選びは「自分の持っているもの」を起点に考える
どのような掛け合わせを作るかを考える際のヒントを一つ挙げるとすれば、それは「持っているものに着目する」ということ、これに尽きます。
これはキャリア戦略にも関わることなのですが、多くの人は「自分が持っているもの」を活かそうとせず、「自分が欲しいもの」を追求してしまう。でも、そうやって追求したものが、その人のユニークな強みになるかというと、これはもうまったくならないんですね。
もっとも大事なのは、「自分がいますでに持っているもの」を、どのようにして活用するかを考えることです。しかし、これがなかなか難しい。
たとえば、「ラプソディー・イン・ブルー」の作曲者として知られるジョージ・ガーシュウィンは、オーケストレーションを正式に学んだことがありませんでした。それが恐らくガーシュウィンにとってはコンプレックスだったのでしょう、当時「オーケストレーションの名手」として高名だったモーリス・ラヴェルに会った際、オーケストレーションについて教えてほしいとお願いしたそうです。
ところが、このときのラヴェルの返答が実に振るっていて「あなたはすでに一流のガーシュウィンなのだから、わざわざ勉強して二流のラヴェルになる必要などないでしょう?」というものでした。ここでラヴェルが言っているのは、私の指摘と同じで、要するに「自分が持っているものに着目しなさい」ということです。
その人にとっての本当の強み、他の人にはなかなか真似のできない強みというのは、それが本当の強みであればあるほど、本人にとっては「できて当たり前、知ってて当たり前」であることが多いのです。だから、それを「あなたの強みってここですよね」と言われると「はあ、それは私にとっては当たり前なんですけど」と思ってしまう。
一方で、周囲の人たちにはできるのに自分にはできないことに意識を向けてしまい、いわば「ない物ねだり」をしてしまう。
しかし、ではその「ない物」を一生懸命に努力して獲得したとしてどうなるかというと、せいぜい「人並み」にしかならないわけです。しかし、これでは厳しい。なぜかというと、「人並み」のものには誰もお金を払わないからです。経済価値が生まれないんですね。
人がお金を払うのは、いつも「ユニークなもの」です。そして、自分を他者と差別化するポイントは常に、本人が当たり前と思っていることの中にこそ潜んでいるものなのです。
まとめましょう。まず、自分が学ぶべきジャンルについては、二つのジャンルのクロスオーバーを考えてみる。一つのジャンルで飛び抜けるのは難しいことですが、クロスオーバーを作るとユニークなポジションを作りやすい。これが一つ目のポイントです。
そして二つ目のポイントが、掛け合わせるジャンルについては、「自分の持っている本性や興味」を主軸に選ぶべきで、他人が「持っているもの」で、自分が「欲しいもの」を主軸にしてはいけない、ということです。
だが今思えば、それが良かったのかもしれない。なぜなら、好きなことを探求し続けた結果、人とは違う知識が自然と身につき、それが自分の個性となり、今や生活の糧にまでなったのだから。
――荒俣宏『0点主義』