TOTOと筆者が
トイレ問題に取り組んだ理由

 建物内で人とペットが快適に暮らそうとすると、除菌や消臭、汚れ防止などが住空間の各所に求められます。

 少子高齢化の影響もあり、室内で猫や小型犬をはじめ様々なペットを飼う家庭が増えている一方で、建物の高気密化が進んでいることから、除菌、消臭などのニーズの高まりは必然的なものと言えるでしょう。

 中でも、台所やトイレなどの水回りを清潔に保つことは、快適な生活に欠かせません。

 実は、光触媒の応用開発の先がけとなったのが、1990年代に東京大学藤嶋研究室のあった工学部5号館のトイレをこの技術でもっとキレイにできないか、というものでした。

 そして、衛生陶器の大手メーカーTOTOと東大がこの問題に共同で取り組んだことが、光触媒の今日の発展につながっているのです。

 現在では、住宅のトイレだけでなく、公共施設のトイレの小便器の下のタイルにも導入されるようになってきています。

 特に汚れがつきやすく、トイレ臭の原因となる場所であるため、専門的には汚垂れタイルと呼ばれています。このタイルに光触媒機能をつけたものが、学校、オフィスビル、駅などの交通施設のトイレに広がっています。

 また、保育園、幼稚園等にこのタイルを導入する場合、表面に足の位置を印刷するといった工夫も行われており、トイレマナー教育にも一役買っています。

 トイレの汚れやニオイまでも防ぐことができるようにと開発された大型タイルは、その確かな効果から、本書で触れたように、病院の手術室、駅構内の壁や商業施設の調理場などへも導入されるようになってきました。

 光触媒を発見して今年で50周年。いまや東海道・山陽新幹線の光触媒式空気清浄機、成田国際空港の光触媒テント、パナホームの一戸建てからクフ王の大ピラミッド、ルーブル美術館、国際宇宙ステーションまで、その活躍の場は多岐に及んでいます。

藤嶋 昭(Akira Fujishima)
東京理科大学学長
1942年生まれ。1966年、横浜国立大学工学部卒。1971年、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。1971年、神奈川大学工学部専任講師。1975年、東京大学工学部講師。1976~77年、テキサス大学オースチン校博士研究員。
1978年、東京大学工学部助教授。1986年、東京大学工学部教授。2003年、財団法人神奈川科学技術アカデミー理事長。2003年、東京大学名誉教授。2005年、東京大学特別栄誉教授。2010年、東京理科大学学長(現任)。現在、東京理科大学光触媒国際研究センター長、東京応化科学技術振興財団理事長、光機能材料研究会会長、吉林大学名誉教授、上海交通大学名誉教授、中国科学院大学名誉教授、北京大学客員教授、ヨーロッパアカデミー会員、中国工程院外国院士。これまで電気化学会会長、日本化学会会長、日本学術会議会員・化学委員会委員長などを歴任。
【おもな受賞歴】文化勲章(2017年)、トムソン・ロイター引用栄誉賞(2012年)、The Luigi Galvani Medal(2011年)、文化功労者(2010年)、神奈川文化賞(2006年)、恩賜発明賞(2006年)、日本国際賞(2004年)、日本学士院賞(2004年)産学官連携功労者表彰・内閣総理大臣賞(2004年)、紫綬褒章(2003年)、第1回The Gerischer Award(2003年)、日本化学賞可(2000年)、井上春成賞(1998年)、朝日賞(1983年)など。オリジナル論文(英文のみ)896編、著書(分担執筆、英文含む)約50編、総説・解説494編、特許310編。