1967年に酸化チタン光触媒を発見した、東京理科大学学長の藤嶋昭氏。毎年、ノーベル化学賞候補にノミネートされている日本を代表する化学者だ。その藤嶋氏が、2017年度「文化勲章」を受章した。
今年で「光触媒」は発見50周年を迎える。その記念すべき年に『第一人者が明かす光触媒のすべて』が発売された。「文化勲章」受章まもないタイミング、「発見50周年の永久保存版」「わが人生の集大成」ということで注目が高まっている。
東海道・山陽新幹線「のぞみ号」の光触媒式空気清浄機、成田国際空港の光触媒テント、パナホームの一戸建て、日光東照宮の「漆プロジェクト」から、ルーブル美術館、クフ王の大ピラミッド、国際宇宙ステーションまで、光触媒の用途はとどまることを知らない。日本だけでなく世界へ宇宙へと広がっているのだ。
2020年東京五輪で「環境立国」をうたう日本にとって、光触媒は日本発の世界をリードするクリーン技術の生命線。酸化チタンに光が当たるだけで、抗菌・抗ウイルス、防汚、防曇、脱臭、大気浄化、水浄化など「6大機能」が生まれるので世界中で重宝されている。
これからの時代、文系、理系を問わず、光触媒の知識が少しあるだけで、あなたは羨望の眼差しを受けるかもしれない。
知られざる光触媒の最前線を、第一人者の藤嶋氏に語っていただこう(構成:寺田庸二)。
光触媒式空気清浄機の仕組み
ここまで紹介した内装用ガラスやカーテン、壁紙、ブラインドなどの光触媒つき和紙抗菌・抗ウイルス、脱臭、防汚作用は、光触媒をコーティングした材料の表面にやってきた細菌やウイルス、ホルムアルデヒドなどの有害物質を分解・除去する働きで、室内の空気浄化の観点からすると、いわばそのままの状態で効果のあるパッシブな働きです。
これに対して、空気清浄機フィルターへの光触媒の活用は、よりアクティブに室内の空気をキレイにしようとするものです。
一般家電製品としての光触媒式空気清浄機がダイキン工業をはじめ大手各社から出されていますし、最近ではより強力な浄化力の求められる業務用空気浄化装置フィルターに光触媒が活用され、大学病院の解剖学教室、病理検査室、介護施設、食品加工工場、ペットショップ、オフィスの喫煙室等、様々な場所で、空気をキレイにするために貢献しています。
光触媒式空気清浄機の構造は、1.ホコリや粉塵を取り除くプレフィルター、2.有害物質や悪臭、細菌、ウイルスなどを分解除去する光触媒フィルター、3.光触媒反応を起こすための光源、4.空気を循環させるための吸引ファンの4つで構成されています。
光触媒フィルターには、空気浄化性能を高めるために、表面積をなるべく大きくして、取り除きたい物質との接触効率を上げる工夫がなされています。
フィルターの材質としては、ハニカム構造の紙フィルターや、セラミック、ガラス繊維、多孔を持つアルミニウム基板などが用いられ、様々な方法によって光触媒がコーティングされます。
また、光触媒単独ではその表面にやってきた物質に反応するだけで、積極的に物質を捕まえる効果はありませんので、フィルターには吸着剤を組み合わせて、取り除きたい物質を積極的に吸着し、光触媒による分解効率を上げる工夫もなされています。
ここで行われている吸着剤とのハイブリッド化はひとつの代表的な例ですが、光触媒を活用した応用製品の開発においては、他の技術との組合せで求める機能を飛躍的に高め、製品化を実現していることが大きな特徴です。
光源としては、ブラックライトや水銀ランプ、殺菌灯に加え、LED(発光ダイオード)が使われることも多くなりました。LEDを使うことで、空気清浄機自体の薄型化、消費電力の低減化が可能になってきました。
光触媒方式ではない従来の空気清浄機の場合、フィルターにトラップされた物質は分解されることはなく、徐々にフィルターの性能を低下させてしまいますし、細菌やウイルスなどはフィルター上で増殖して、再び室内に放出されてしまう危険性もあります。
それに対して、光触媒式空気清浄機では、光触媒反応による分解除去力によって、フィルターの性能が低下せず、常に室内の空気をキレイに保つことができます。