ビジネスでも「成長の方程式」が使える理由
ある研究者は世界的なアーティストとずば抜けた頭脳を持つ人たちの共通点を追究していた。
その研究者の名はミハイ・チクセントミハイ博士。ポジティブ心理学の草分け的存在であり、幸福、意味、最高のパフォーマンスに関する論文を発表して有名になった研究者でもある。
「フロー」という言葉を耳にしたことはないだろうか。ある活動に没頭するあまり、すさまじい集中力を発揮する最高の状態のことだ。この概念を提唱したのがチクセントミハイである。
フローの研究ほど有名ではないものの、彼の創造力に関する研究も同じぐらい洞察に富んでいる。チクセントミハイは過去50年にわたって、専門分野を超えて活躍する何百人もの天才たちにインタビューを行った。
たとえば、独創的な発明家、斬新なアーティスト、ノーベル賞を受賞した科学者、ピューリッツァー賞作家など。持久力勝負のスポーツで活躍するトップアスリートたちが、緩急をつけたトレーニング方法に切り替えていることにシーラーが気づいたように、チクセントミハイもまた、同じ傾向を創造力豊かな天才たちから読み取った。
ずば抜けた頭脳を持つ天才たちは、並々ならない集中力で仕事に取り組み、それ以外のときはひたすら休養と疲労回復に努めていたのだ。
こうして緩急をつけることで、創造力の消耗や脳の疲労を予防できるだけでなく、革新的な発想や世紀の大発見も可能になるとチクセントミハイは主張する(その原理については第4章で詳しく説明する)。
そして、どんな分野であれ偉大な知識人や創造力豊かな人々には、以下の共通するプロセスが見られるという。
ステップ1 没頭:高い集中力を発揮しながらひたすら仕事に没頭する
ステップ2 熟成:休息と疲労回復のための時間。仕事のことはいっさい考えない
ステップ3 ひらめき:アハ体験、すなわち不思議なひらめきが起きること。新しいアイデアがわいたり、考えが深まったりする
どこかで聞いた話ではないだろうか?
頭脳や創造力に秀でた天才たちが思考力を磨くためにやっていることは、身体能力に秀でたアスリートたちが体を鍛えるためにやっていることと同じだったのだ。これはおもしろい。筋肉と心は、われわれが思っている以上に似ているのかもしれない。
酷使すると消耗して活力を失うのは筋肉だけではない。心も同じなのだ。