〈選択と集中〉は受験勉強にも活かせる

「そうや。例えばな……」と立三さんは、カットの途中にもかかわらずオレにノートとペンを用意させて、説明を始めた。

「君が2週間後に『宅建(宅地建物取引士)』の受験を控えているとする。君は仕事の都合でどうしても合格しなければならない。その最後の追い込みの2週間、どんな勉強の仕方をすれば合格できるのか?を考えてみよか」

立三さんの説明は、次のようなものだった。

●重み
宅建の試験は4科目で、全50問。合格ラインは38問と言われている。で、過去問を調べると、「宅建業法」20問、「法令上の制限」8問、「その他の分野」8問、「権利関係」14問、という配点傾向がわかる。

●現状の得点力
「今、受験したら各分野で何問正解できるか?」と自問した場合、現状での予想合計正解数は、「宅建業法」11問+「法令上の制限」4問+「その他の分野」5問+「権利関係」9問=29問。これを、絶対合格圏内の38問に引き上げればいいわけだ。

●主観的達成確率
「1週間、1つの科目に絞って集中的に勉強した場合、その科目を満点にできる自信度は何%か?」と自問して、直感的に答える。すると、「宅建業法」90%、「法令上の制限」70%、「その他の分野」90%、「権利関係」85%、になったとする。

●重み×主観的達成確率
そして、「重み」と「主観的達成確率」を掛け算する。

●上位2科目集中結果
「重み×主観的達成確率」でわかった上位2科目を、1週間ずつ集中的にやると、「18問+4問+5問+11.9問=合計38.9問」で、絶対合格圏内に入る。38問正解はかなり高い合格ラインの設定なので、合格はほぼ間違いない。

何に集中し、どの順番でやるかを決めることが経営では肝心

「へー、そんなふうにやるんですか?」オレは本当に感心した。

「試験の得意なヤツは、直感的にやってることや。苦手なヤツは、たいてい迷うし、他の科目も気になるから、広く浅く勉強して失敗する。でも、こうやって整理すると、モヤモヤがなくなって集中できるやろ。集中すると、各科目1週間かからないかもしれん。すると、残りの2科目の準備をする時間的余裕もできて、ますます高得点が期待できる」

立三さんは、「これが、〈選択と集中〉の身近な例や」と言って目を閉じた。

(つづく)

●著者:さかはらあつし
作家、映画監督、経営コンサルタント 1966年、京都生まれ。京都大学経済学部卒業。(株)電通を経て渡米し、カリフォルニア大学バークレー校にて経営大学院にて修士号(MBA)取得。シリコンバレーで音声認識技術を用いた言語能力試験などを行うベンチャー企業に参加。大学院在学中にアソシエートプロデューサーとして参加した短編映画『おはぎ』が、2001年カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドール(最高賞)受賞。帰国後、経営コンサルティング会社を経て、(株)Good Peopleを設立。キャラクターの世界観構築など、経営学や経済学だけでなく、物語生成の理論、創造技法や学習技法を駆使した経営支援、経営者教育を手がけている。著書は、『プロアクティブ学習革命』(イースト・プレス)、『次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説』(dZERO)ほか。映画は、初監督作品の長編ドキュメンタリー『AGANAI』の公開に向けて奮闘中。京都在住。