企業を成長させる投資戦略
「Fit for growth」とは
PwCシンガポール シニアマネージャー
金融、製造、消費財、商社、製薬等幅広い業種に対し、事業戦略立案、業務プロセス改革、SCM改革、間接材コスト削減等の業務系コンサルティングの他、大規模システム導入プロジェクトの構想立案から導入に関するコンサルティングに数多く携わる。現在、シンガポールに拠点を移し、東南アジア地域における日系企業へのコンサルティングを担当する
企業は常に「成長」という言葉に挑み続けている。PwCグローバルが実施した「世界CEO調査」によると、企業のトップの94%が成長は自社にとって重要であると考え、85%は業界平均の成長率を上回りたいと期待している。その一方、持続的な成長に向けた準備が十分にできていると考えている企業はわずか6%である。
では、どのように持続的な成長に向けた準備を進めていけばよいのだろうか。そのカギとなるキーワードが「Fit for Growth」である。これまで多くの企業で行われてきた、企業を収縮させるだけの単純なコスト削減ではなく、企業をより強くする戦略的なコスト削減を行ったうえで、捻出された資金を企業の未来へ投資することが重要となる。
本連載の最後に、企業の永続的な成長に必要なことについて、現在私が活動の拠点をおく東南アジアの日系企業を例としてご紹介する。
成長の第二フェーズに突入するASEAN
東南アジア10ヵ国からなるASEAN(東南アジア諸国連合)は、人口6億4000万人、GDP2兆5500億ドルを超える経済圏で、新たな消費市場・生産拠点として重要な地域である。
近年の日本からの投資も堅調に伸びており、日本の財務省が発表する対外直接投資統計によれば、ASEAN向け投資が2013年以降3年連続200億ドル台を維持している。
10年前は「安価な労働力」を求めて日系企業が東南アジアに進出する傾向が強かったが、最近では進出国(地域)の「市場としての魅力」がかなり高まっている。さらに、R&D機能やイノベーションセンターを設置し、東南アジア市場向けの製品を現地で開発する動きも活発だ。特にシンガポールにおいては、知的所有権の規制が整い、R&Dに携わる人材が比較的採用しやすく、研究インフラが整備されている為、多くの企業が研究施設を設置している。
市場としてのASEANの重要性が高まる中で、既にASEANで展開している拠点を再編・強化するため、地域統括拠点をシンガポールに設置したり、既存拠点の評価や権限強化を進める動きも相次いでおり、その傾向は2017年も続いている。日系だけではなく欧米の大手企業による統括拠点設置も活発である。
そのような状況の中、日系企業はASEANの次の成長に向けて、アジアにおける自社の取り組みを再評価するとともに、企業にとって重要な領域へ投資を行うべきと筆者は考える。