ドラッカーは、未来をかたちづくるのは、起業家たちが生み出す構想であると言う。起業家的な小さなアイデアが新規事業の萌芽となり、それが将来のニーズに応え、未来が形成されていくのだ。しかし、概して大企業は、未来への投資に消極的であり、不確実性とリスクを嫌い、多くのアイデアを殺している。アイデアを支援する体制や価値観が失われると、イノベーションが生まれてこないばかりか、その果てには、組織の寿命も短くなっていく。未来を拓く構想にはリスクがつきものである。だからこそ、勇気、努力、信念が求められるのだ。

未来は小さなアイデアによって形成されていく

長期計画は、大企業のためだけのものだろうか。またこれは、将来を予測し、そこから予見される動向に沿って組織を動かすことだろうか。

多くの経営者たちの行動から判断するに、どちらの問いもイエスと答えるのではないだろうか。しかしこれは間違っている。いずれも正解はノーなのである。

未来を予知することはできない。未来について唯一確実なのは、それは現在の延長線上に存在するのではなく、現在とは別のものであるということだ。未来はまだ生まれていないばかりか、形成されてもおらず、また確定もしていない。

しかし未来は、目的を持った行動によって形成されうる。そして、このような行動の原動力となるのはただ1つ「アイデア」である。それも、異なる経済や技術、あるいは他社が開発した他の市場に関するアイデアである。

アイデアは常に小さく生まれる。これが、長期計画が大企業のためだけのものではないゆえんである。だからこそ、未来をかたちづくるうえで、実は小企業のほうに利があるともいえるのである。

新しいものや従来とは異なるものは、金銭面から判断すれば、概してささいで取るに足らないように見える。そのため、大企業の巨大な既存事業の前では卑小な存在として影が薄くなりやすい。

実際、新たなアイデアが数年後にもたらしうる売上高は、大成功を収めたとしても数百万ドル程度にしかならない。大企業の既存事業がもたらす数億ドルの売上高に比べればあまりにも貧弱に見える。その結果、往々にして無視されてしまう。

しかも、新しいものはたいてい、かなりの努力を要する。したがって、大企業より小企業のほうが、未知なる取り組みには意欲的な場合が多い。

また、だからこそ、大企業は通常の活動とは切り離して、長期計画を立案するともいえる。さもなければ、今日の仕事をこなすだけで手一杯となり、それ以上のことにはまったく手が回らなくなってしまうからである。

ただしもちろん、未来を形成せんと順調に歩を進めている企業は、そういつまでも小企業にとどまってはいないだろう。今日、成功を収めている大企業でもかつては――IBMやゼロックスのように、ごく最近までというところも少なくない――未来がどうあるべきかという構想に基づいて行動した小さな一企業であった。

しかし、このような構想は、富を創出する可能性と力を備えた起業家的なものでなければならない。順調に業績を伸ばす生産的な事業として具体的に提示され、企業としての行為や活動を通じて実現されなければならないのである。