「もしも会社やそのCEOすらいまだにソーシャル・ネットワーク上に登場していないとしたら、その会社は存続が危うくなる可能性すらある」。ミネソタ州リッチフィールドに本社を置く世界最大の家電量販店、ベスト・バイのCEO、ブライアン J.ダンは、こう断言する。彼は、〈ツイッター〉と〈フェイスブック〉のヘビー・ユーザーでもある。実は彼には、自分の〈ツイッター〉がハッキングされたり、社員がベスト・バイの顧客を不快にさせるようなビデオをネット上に投稿していたという苦い経験がある。

しかし彼は、ソーシャル・メディアから撤退することなど、まったく考えなかった。トレンドを知り、社員や顧客とコミュニケーションを図るための強力なツールと位置づけているからだ。彼は、いまいちばん必要なのは、ソーシャル・メディアへの正しい対応を社員に理解してもらうことだと判断した。そこで、ベスト・バイでは全社員を対象にソーシャル・メディア利用規程を制定。社員教育に取り組んでいる。

〈ツイッター〉がもたらした「危機」

 2010年初め、私が海外に出張していた時のこと。午前4時に最初の電話が鳴った。当社の業務担当バイス・プレジデントからだった。彼女の電話を皮切りに、それから立て続けに緊急の呼び出しを受けた。我々が対処すべき「危機」は、私の〈ツイッター〉アカウントに関係するものだった。

ブライアン J. ダン
Brian J. Dunn
アメリカ、ミネソタ州リッチフィールドに本社を置く世界最大の家電量販店、ベスト・バイのCEO。2009年6月より現職。

 私はふだんから、さまざまな内容のツイート(投稿)をする。店舗での出来事や自分の子どものことだけでなく、地元球団のミネソタ・ツインズについて意見することもある。

 ところが、その日の朝、アメリカにいる同僚と約5000人の〈ツイッター〉フォロワーは、私から発信された奇妙なツイートを目にしていた。それは、こういう内容だった。

 「最近、セックスの調子がすごくよくて、やりまくり。秘密はコレ」

 本文の後にウェブサイトのリンクが貼ってあった。おそらく男性用精力剤のものだろう。ハッキングされたのだ。間違いない。私は気恥ずかしくなると同時に、腹が立った。冒瀆されたような気がした。