ジョン・ドナホーの前任者、メグ・ホイットマンは、1998年に社員数30人程度の規模だったイーベイを、退任する2008年3月までに世界的なネット・オークション会社に成長させた。そうした名物CEOの後任というのは気の重いものだが、ドナホーには取り組まねばならない仕事があった。コア事業であるオークションは下降線をたどり、スカイプの大型買収も失敗に終わっていた。

ドナホーは、オークション事業の活性化のため、イーベイの取引市場を整備し、また事業の方向性に合わなかったスカイプは売却して、イーベイと相性のよいアプリ・メーカーやチケット売買サイトなどの買収を続けた。また、顧客のフィードバックを直接収集するサイトの創設など、顧客重視とイノベーションの推進に力を注いでいる。創業から15年経ったいまも、リスクを取って成長を追い求めるイーベイの企業文化について語る。

スマートフォンがショッピング形態を変える

HBR(以下色文字):イーベイは、世界じゅうのビジネスのやり方を変えました。そして、創業からすでに15年になります。通常、年月とともに成長は鈍化するものですが、これをどのように回避されていますか。

ジョン・ドナホー
John Donahoe
イーベイ社長兼CEO。2005年2月にイーベイに入社し、イーベイ・マーケットプレーシズの社長として、イーベイのグローバル・eコマース事業の指揮を執っており、3年間で売上げと利益を倍増させている。イーベイ入社以前は、コンサルティング会社のベイン・アンド・カンパニーに20年以上勤務していた。

【聞き手】
アディ・イグナティウス
Adi Ignatius
ハーバード・ビジネス・レビュー誌 編集長

ドナホー(以下略):おっしゃる通り、当社は創業して15年になりますが、インターネットを動かしている勢力や、このビジネスをリードする企業は、5年ごとに様変わりしてきました。

 今後5年間の変化は、過去10年の変化より大きいと思われます。顧客の行動がダイナミックに変化するこの時代をとらえることに、まず注力していきたいのです。

 しかしイーベイは、まだ創業時の原型を留めているともいえ、いまでも昔ながらの小売商のようでさえあります。それがためにイノベーション・チャンスを逃していると感じたことはありますか。

 それはありません。当社のオペレーションを変えるような影響力を持つ最も基本的な勢力の1つに、スマートフォンがあります。

 イーベイは2009年に〈iフォーン〉向けアプリを公開し、初年度の〈iフォーン〉経由の取引は、6億ドルに上りました。2010年は15億~20億ドルほどです。1400万人以上が〈iフォーン〉のアプリをダウンロードしています。それが、世界じゅうで最もよく使われている、mコマースのアプリです(注)。

【注】
携帯電話など、モバイル通信を利用したeコマースのこと。