手荷物係の不手際を〈ユーチューブ〉に投稿されたユナイテッド航空、環境保護団体から、原料調達が環境破壊を引き起こしていると〈フェイスブック〉に書かれたネスレなど、ソーシャル・メディアにより力をつけた顧客が企業を攻撃する例が増えている。しかし、企業側もこうした事態に手をこまねいているのではなく、社員のテクノロジー・パワーを認め、これを活用したイノベーションに取り組まねばならない。

本稿では、〈ツイッター〉を顧客サービスに利用したベスト・バイ、営業研修にオンライン動画を活用するブラック・アンド・デッカー、広告宣伝にソーシャル・メディアを利用するベイル・リゾートなど、技術をうまく活用した企業を紹介し、その成功のカギを探る。これら企業に共通するのは、HERO(Highly Empowered Resourceful Operative: 権力を与えられ、問題解決に必要な資源を持つ社員)の力を経営陣が支持し、IT部門がサポートしていることである。筆者たちは、この3者間で協働のための「契約」を勧めている。

社員のテクノロジー・パワーを理解する

 もしかするとデーブ・キャロルというミュージシャンのこと、そして彼がユナイテッド航空を利用した際の出来事については、すでにお聞き及びかもしれない。

ジョシュ・バーノフ
Josh Bernoff
フォレスター・リサーチ アイデア開発担当
シニア・バイス・プレジデント

テッド・シャドラー
Ted Schadler
フォレスター・リサーチ バイス・プレジデント
兼首席アナリスト

 ご存じない方のために説明しよう。デーブ・キャロルは、ユナイテッド航空の手荷物取扱係に愛用のギターを壊され、その損害賠償を請求したが拒否された。

 これに激怒した彼は、「ユナイテッド航空はギターを壊す」という皆の興味をそそりそうな動画をつくり、〈ユーチューブ〉に投稿した。すでに800万人以上が、ユナイテッド航空というブランドを徹底的に悪く描いたこの動画を再生している。

 キャロルのような行動は、けっして珍しくはない。子育てブロガーとして人気のあるヘザー・アームストロングは、購入したメイタグ製の洗濯機が故障し、それに続く修理でもミスがあったことに腹を立て、100万人以上のフォロワーに対し「メイタグの製品は絶対買わないように」と携帯電話で呼びかけた。

 また環境保護団体のグリーンピースの支援者たちは、同社の〈フェイスブック〉に、ネスレの調達方針のせいで多くの環境破壊が引き起こされているという苦情を書き込んだ。

 このような例はいくらでもある。なぜならスマートフォンやPCを持っていれば、だれでも簡単に、ブランドに長期的な損害を与えられるからだ。

 しかし機嫌を損ねた顧客だけが、すぐに利用できる伝播力のきわめて高い、強力な技術を駆使して、影響を与えるわけではない。社員や公務員などでもそれは可能だ。