リスク・マネジメントを改善する

 複雑系をどうにかしなければならない人にとって、リスクの最小化は不可欠だが、従来のアプローチでは不十分である。以下について勉強する必要がある。

 正確な予測の必要性を制限する、あるいは排除する

 予測できない世界においては、予測の重要性を最小化することが最も賢い投資となる場合がある。製品設計について考えてみよう。

 伝統的なシステムでは、メーカーは、各種特性をどのように構成すれば顧客が買ってくれるのか、その値段はいくらなのかについて推測しなければならない。製品が複雑な場合、とりわけ推測を誤る危険性が高い。

 ユーザーに決定権を与え、ユーザー自身が望む最終形を彼ら自身の手でつくることができるシステムを設計すれば、このような推測をなくすことができる。たとえばルル・ドットコムは、著者に出版プロセスの主要部分を管理させることで、既存の出版モデルを覆した。

 従来のモデルでは、出版社は著者に前払いし、何部売れるのかわからないまま、書籍を印刷する。ルルのモデルでは、著者が同社のウェブサイトにコンテンツをアップロードし、値段をつける。その書籍(または他の形態のコンテンツ)は、顧客がこのサイトを訪れ、購入を決めてから印刷される。著者は、売上げの80%──一部当たりの実入りは通常よりも多い──を受け取り、ルルは最終的に投げ売りされたり、死に筋在庫になったり、破棄されたりする書籍を印刷せずに済む。

 ルルは、買い手がついて初めて書籍を発行し、金銭の授受が発生する意思決定プロセスを構築したことで、見込み違いを犯す危険をほぼ排除することに成功した。

 もっと複雑な製品でありながら、この原則を体現しているのが、世界的に成功を収めている〈ボーイング777〉シリーズである。

 ボーイングは、大手航空会社八社に開発プロセスへのアドバイスを仰ぎ、これらの顧客から言われたことに基づいて設計が進化していくという双方向型モデルを生み出した。そして、三次元モデリングなど先進的な可視化技術を用いて、航空機システム間の予期せぬ相互作用を減らし、フィードバックをできるだけ早く把握した。

 分離(デカップリング)と冗長性(リダンダンシー)を用いる

 複雑系では、どこかに不具合が生じた場合、システム全体への影響を減らすために、その構成要素を切り離されることがある。このような「分離」(あるいは非干渉)には、予期せぬ事態によるリスクから組織を部分的に守る、対応するうえで必要な部分を保護するという2つのメリットがある。

 ここで、〈ウィンドウズ〉OSとSaaS(software as a service:必要な機能を必要な分だけ利用できるソフトウエア)を比較してみよう。

 〈ウィンドウズ〉OSと利用者のデータは不可分に結びついている。したがって、OSを新しいバージョンにアップデートすると、すべての情報が消えてしまう。つまり、バックアップを取っておき、コンピュータにリロード(再読み込み)しなければならない。

 SaaSの場合、インターフェースが統一されているため、どのコンピュータからでも自分のデータにアクセスできる。アップデートも自由で、それによってデータが何らかの影響を受けることもない。このようにソフトウエアとデータが分離されているため、両方が同時にダメージを被るリスクは激減する。

 システムの一部がダウンした時、各要素が互いに代替し合うように設計することも可能である。あえて「冗長性」を持たせることで、一部に不具合が生じても、システムが少なくともある程度稼働し続けられる。

 分離と冗長性には追加コストがかかるが、投資する価値はある。もちろん、一組織で抱えられる分離と冗長性は、規模でも金銭面でも限界がある。したがって、組織の適応力を拡大するために、外部資源が必要になることもあるだろう。

 たとえばアクセンチュアは、パートナーの広範なネットワークを有しており、自分たちが対応できない不測のニーズが顧客に生じた時、これらのパートナーの力を借りることができる。そのほか、やはりパートナーシップ(本稿筆者の一人マグレイスも契約を交わしている)を使って、自社の主力事業に関わるものではないが、将来的に顧客の関心を引く可能性がある研究を行っている。