2012年の初仕事として、ホンダ(本田技研工業)を取り上げる。同社については以前から、各種の経営指標が大きくブレることがあり、その根本原因にいずれ言及する必要があるだろう、と考えていた。
自動車業界は、電機業界と並んでメディアやシンクタンクで取り上げられることが多い。その中でもホンダは人気銘柄であり、同社の経営指標がこれだけ乱れれば、メディアやシンクタンクでも「ホンダの不安定因子」に気づくだろうと、筆者は悠長に構えて放置してきた。
ところが、誰も気づく気配がない。「経営分析の節穴」も、ここまでくると重症だ。そこで新年早々、腕まくりして、この「サバイバル経営戦略」でホンダを扱うことにした。
結論を先に述べておくと、ホンダに係る経営指標の多くが安定しないのは、東日本大震災・円高・タイの大洪水などの「外的要因」にあらず、「理論的に破綻している会計システム」をホンダが採用していることにある、というのが筆者の見立てである。
会計知のない人々が、その「内的な破綻因子」を理解しないでホンダの経営分析に取り組んだ場合、経営指標は大きく乱れ、見当はずれの評価を下すことになる。まさに人災だ。それを以下で証明してご覧に入れよう。
ホンダの業績が崩壊する
最初に、ホンダの業績がどれだけ不安定なのかを、ニッサン(日産自動車)の業績と比較しながら確認してみる。
比較の便宜を考慮して、ホンダの〔図表 1〕と、ニッサンの〔図表 2〕は、どちらも縦軸の上限を35兆円に揃えている。両図を見ると2009年後半以降、一目瞭然の差がある。〔図表 1〕のホンダについて、各種の経営指標を求めたところで、それが大いに乱れるであろうことは、想像に難くない。
これらの図表の見方について、ブレの小さい〔図表 2〕を用いて説明しよう。黒色の曲線は、実際売上高の四半期移動平均である。その上にある青色の曲線を「予算操業度売上高」という。経済学でいえば「規模の経済」が最も働くところであり、別の表現を使うならば「量産効果を最も発揮する売上高」である。予算操業度売上高の上にある赤色の曲線は、経済学でいう「利潤最大化条件MR=MC」を実現する売上高であり、「最大操業度売上高」と呼ぶ。
「マンキュー経済学・ミクロ編」142頁の〔図5-7〕と、第67回コラム(三菱重工業&日立製作所編)の〔図表3〕を見比べていただきたい。最大操業度売上高における価格弾力性は「1」であることがわかる。したがって、最大操業度売上高を超えて、売上高をさらに伸ばそうとすると、増収「減」益の憂き目を見る。これが価格弾力性の意味するところだ。