賃貸の場合、いつまでも家賃を払い続けなければならず、高齢になると更新できないという不安もある。持ち家は家賃の心配はないが災害時のリスクや介護状態になれば住むのが難しくなることもある。損得だけでは計れない老後の住まいを考える。

Q 今、賃貸暮らしをしていますが、家を買うべきか否か迷っています。

★相談者
千葉県在住の銀行マン井上さん(43歳)

◎回答者
井戸美枝さん 社会保険労務士、FP。井戸美枝事務所代表。テレビ出演、自治体などの講演などで活躍。

現在は妻と2人暮らし

 井上さんの妻(42歳)はパート。世帯年収(手取り)1260万円。金融資産5000万円。50歳で出向することが決まっており、収入の大幅ダウンが心配。

災害が心配なら様子を見て節目に購入を検討すべき

 賃貸住宅で暮らす井上さんの目下の悩みは、終の棲家をどうするか。井上さんが勤める銀行では50歳で出向するのが一般的で、その後は収入も現在の半分程度になる。

「その前に住宅購入するべきか、それとも賃貸暮らしを続けて、老後は有料老人ホームなどに入居するほうがいいのか迷っています。ただ、東日本大震災の被害を目の当たりにして、持ち家のリスクも実感したので、今、買っても大丈夫なのか心配です」

 たとえば5000万円の物件を購入する場合、60歳時点でローンを組まずに買うより、金利の低い今のうちに頭金3000万円で、2000万円程度のローンを組んだほうが、老後の金融資産は約2000万円多くなる。

 FPの井戸さんは、「お金の面だけで見れば今買ったほうが有利です。とはいえ、資産に余裕があるので、60歳で住宅を購入しても老後資金が枯渇することはない」といいます。

 基本生活費が抑えられているので、現在の支出ペースなら、たとえ出向して収入が半減しても井上家の金融資産は順調に増えていく。65歳から夫婦で年間315万円の年金がもらえるので、家を買わずに賃貸暮らしを続けても老後の生活費の心配はない。

 賃貸住宅なら、その時々の夫婦の置かれた環境に合わせて住み替えたり、老後に介護が必要になったときは有料老人ホームなどを利用することも容易になる。

 「持ち家も賃貸も、それぞれにメリットとデメリットがあります。計算上は購入したほうがおトクですが、災害や先行きの不安があるなら、今は無理に購入せず、出向時や定年時などの節目に暮らし方を見直して検討してみてはいかがでしょうか」(井戸さん)

44歳で住宅ローンを組むのと、
60歳でキャッシュで買うのとどっちがトクか?

住宅ローンを組んだほうがトータルで2000万円も預貯金が残る

 44歳時点で頭金3000万円、住宅ローン2000万円を10年固定(イオン銀行1.58%)で組んだ場合と、今の賃貸生活を続け、60歳時点でキャッシュで5000万円の家を買った場合で試算した(図表参照)。

 家賃が年間195万円かかっているのと、現在のローン金利が低いこともあり、住宅ローンを組んだほうがトータルで2000万円も預貯金が残る計算に。

(文/早川幸子)

ダイヤモンド・ザイ2012年2月号に掲載。第1特集は「お金の秘策100!」。株式投資や投信、預貯金、保険、年金、節税、ローン、FXなど上記以外に99の「秘策」を掲載。その他、高利回りの金融商品のランキングベスト35も。