就活生にとっての銀行人気神話の前提を振り返ってみると、他業界に比べて圧倒的に高年収が保証されているというイメージが強かった。一方で、神経を擦り減らし人間性が削られていくというマイナス面とのバランスを比べながら、それでもエリートである銀行員に学生たちが憧れるというのが、これまでのステレオタイプな説明であった。
念のために補足説明しておくと、入行してみればわかる通り、銀行は金貸しである。特に法人顧客の場合、銀行がお金を貸してくれるかどうか次第で、企業は天と地ほどの格差を味わう。金にまつわる仕事はきれいごとではない。銀行員の仕事は多くの恨みつらみを背負いながらのものになる。さらに日常では、プライベートを含めて羽目を外すこともよしとされないから、ストレスは溜まり、どうやっても神経はすり減っていく。
そのデメリットがわかっていても、社会的地位が高い銀行の仕事は、過去数十年にわてって、学生の人気業種トップだったのである。では、なぜこの1年で急激に銀行のランクが落ちたのか。わかりやすいきっかけは、昨年メガバンク三行がそれぞれの形で表明した大規模なリストラ予告だった。
それぞれターゲット時期は異なるため、規模も異なるが、三井住友フィナンシャルグループでは2021年までに4000人分の業務量を削減。三菱UFJフィナンシャル・グループは2024年までに9500人分の業務量を削減するという。さらにみずほフィナンシャルグループでは、2027年までの10年間に1万9000人の従業員を削減すると発表している。
「リストラ計画」の行方を
目ざとく見据えている学生たち
一見、三井住友が少なく、三菱UFJが中間で、みずほが大規模なリストラをするように見えるが、実は3社の発表は私には全部ひとつながりの連続した計画に見える。
実際、三行ともはじめに導入するのは、ロボティック・プロセス・オートメーションという、人工知能を導入した事務作業の自動化である。これによって大量の銀行事務の仕事が消滅する。
なくなる仕事から、行員を別の仕事に振り向ける。これが、三井住友が4000人を事務から営業へと配転させる計画の根拠である。これを経営陣は「ルーティンに携わっていた人材を創造的な仕事に振り替えていくこと」と表現している。
そして4年間で4000人、7年間では9500人というのが、三井と三菱UFJの人数規模の違いであって、どちらも言っていることは、次々と消滅していく事務に携わる行員の営業業務への配転だ。
これは私たちコンサルタントにとっては、とても耳慣れた経営トップの言い回しで、現業の仕事がなくなった企業では過去もよく同じ発言が繰り返されてきた。国鉄がJRになった際は現業の余剰社員を営業に配転するという人事が行われた。富士通やNECでは、工場の閉鎖が大量に計画された時代にITエンジニアへの配転が発表された。