世界60の国・地域で音楽ビジネスを展開するユニバーサルミュージックグループ。その日本法人が、この4月から契約社員の「正社員化」を実施する。成果主義から180度の転換を決めた背景を、藤倉尚社長に聞いた。(取材・文/フリージャーナリスト 室谷明津子)
成果主義を導入したのに
営業利益は3年で半減した
――この4月に、契約社員の正社員化を実施されます。1年以上の雇用契約を結んでいる人は全員、勤続年数を問わず、転換の対象になるとのこと。音楽業界、しかも外資系の会社としては、珍しい決断です。
少し遡って、背景を説明させてください。2014年に社長になったとき、「人を愛し、音楽を愛し、感動を届ける」という社訓を作りました。エモーショナルに聞こえるかもしれませんが(笑)、これこそが音楽会社の原点だと、私が思っていることです。
その中の「人」の部分で、当社は社員やアーティストをはじめとしたステークホルダーを幸せにできているだろうか。ここでちょっと、引っかかることがあったのです。
ご存じの通り、音楽業界はこの20年で大きく変化しています。CDの売り上げは1998年にピークを迎えて以降、ずっと右肩下がり。2000年代にはレコチョク、iTunesなどインターネットに対応したサービスが始まりましたが、すぐに3000円のCDに代わる売り上げには育ちません。売り上げがどんどん落ちていく苦しい時代が続きました。
そんな中、当社は06年に新卒採用を停止。10年には、アーティストの音楽制作を支えるA&R(Artist & Repertoire)職にインセンティブ制度を導入しました。全員を1年ごとの有期契約にし、結果に対して高いインセンティブを払う一方、3年でヒットが出なければ契約終了または異動という、成果主義に舵を切ったのです。当時、私は執行役員として、A&R職を束ねる立場にいました。
――効果は出ましたか。
導入してすぐに少女時代やKARAが日本デビューし、K-POPブームが起きました。思い切って新人をアサインしてヒットすれば、その分ボーナスが出る。それで活気づいたかと思いきや、長続きしませんでした。K-POPブームが落ち着いた後、 13年の営業利益が対10年比で半減し、いよいよ真の苦境に立たされてしまったのです。