

――「AIファーストな企業になるには何が必要か?」は、デジタルトランスフォーメーションを進める多くの日本企業にとって示唆に富む重要なテーマでした。テクノロジーを導入したり、AIの専門家を採用したりするだけでは不十分で、企業文化を根本から変える必要があるとの指摘は、日本の大企業にとって大きなチャレンジでもあります。企業文化の変革に成功したグローバル企業の事例とともに、日本企業へアドバイスをお願いします。
データ主導型の意思決定を重視する企業文化を醸成することが大切です。従来型の日本企業にとってはとても難しいことだと思います。なぜなら、データ主導型の意思決定を行うようになると、正しいことは必ずしも年長者であったり、経験豊富な人であったりするわけではないからです。しかし、すべての意思決定は検証されないといけません。事実に基づく情報によって正当化されないといけません。意思決定そのものをコンスタントに評価していく必要があります。
最もよい方法は、意思決定の評価自体を自動化することです。アマゾンやグーグルには、そうした文化がすでに根づいています。彼らがつくる商品・サービスはあまりにもアルゴリズム的なため、自分たちの仕事そのものもアルゴリズム的にせざるを得ない状況になっています。
たとえば、アマゾンのCEO、ジェフ・ベゾスがやっているのは、とにかく決断を早くすることです。早く意思決定を行い、いろいろなデータを集めて、それが正しかったのか間違っていたのかを見極めています。正しいかどうかが判明してから意思決定を行うのではなくて、先に決断して、あとから実証することをやっているのです。そのためには、データを収集・分析し、部分的には意思決定も自動化するようなプラットフォームをつくる必要があります。
――「アマゾン、グーグル、彼らがエネルギー事業に参入した時に、どのようにビジネスを展開するかを想像すべき」と警鐘されていました。北米のITジャイアントは、彼らのデータ優位性を持って、どこまで事業領域を広げていくとお考えですか。
これらの企業はすでにエネルギー事業に参入しています。たとえば、グーグルが「ネストラーニングサーモスタット」でどのぐらいの情報を集めているのか想像してみてください。電力会社は世帯ごとの電力消費量を把握していると思いますが、グーグルは、電力を何にどうやって使っているのかまで把握しているのです。エネルギー業界とはいえ、デジタル化の進展は避けて通れない問題です。自分たちのビジネスやサービスのなかで、コモディティ化していくものがある一方で、最も価値があるのは何なのかを問いただしていく必要があるでしょう。
彼らがどこまで事業領域を広げるかはわかりませんが、資産はできるだけ少なく持ち、規模を追求しながら、人間の行動に関するデータを大量に集めていくことで、短期間のうちにいろんな事業を成し遂げている事実には、決して目をそらしてはいけません。