帝人が構造改革にめどを付け、攻めの経営に転じる。ヘルスケアや高機能材料事業などを中心に、5年で6000億円という大型投資を実施し、5年後に営業利益を実に3倍の1000億円にするという、途方もない目標をぶち上げた。ヘルスケア事業のようにすでに高い利益率を持つ事業もあるが、その達成は容易ではない。(『週刊ダイヤモンド』編集部 野口達也)
「すぐに全患者の安否を確認しろ」
2011年3月11日に発生した東日本大震災。地震発生の直後に、荒尾健太郎・帝人ファーマ社長は社員に指令を飛ばした。
同社は慢性呼吸不全患者が自宅にいながら酸素療法を受けられる機器「酸素濃縮装置」の国内最大手だ。シェアは約60%で、今回の被災地域における患者数は約2万5000人にも上る。
すぐに治療を継続できない患者が相当数いることが判明した。そこで同社は全国から応援の社員を投入し、携帯用酸素ボンベ約1万7000本、酸素濃縮装置約600台などを患者の元に届けた。
素早い対応のかいがあって、3月31日までには99.8%の患者の安否を確認できた。同社はあくまで納入・メンテナンス業者にすぎないが、自ら積極的に患者にまで手厚く対応するという姿勢が、信頼感をさらに高めた。
ヘルスケアが稼ぎ頭
利益の約60%を担う
合成繊維事業からスタートし、総合化学メーカーへと拡大した帝人において、医薬品・在宅医療で構成されるヘルスケア事業は今や押すに押されぬ稼ぎ頭になった。12年3月期では営業利益270億円を見込んでおり、主要5事業がある中で約60%の利益を稼ぎ出している。
へルスケア事業が高収益を確保しているのには理由がある。第1に、骨・関節、呼吸器、代謝・循環器という3つの領域にフォーカスしていることだ。また、震災時に素早く患者対応に動いたように、徹底して顧客目線で開発・営業に取り組んできたことが成功につながった。