誤解されがちな「若年性認知症」早期発見が重要な理由写真はイメージです

40~50代という働き・子育て世代が発症する若年性認知症。本人はもちろん、家族が受ける心理的、経済的な影響が大きく、政府が推進する「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」の柱の一つとしても掲げられています。テレビドラマや映画などでセンセーショナルに描かれることもあり、誤って理解している人も多い若年性認知症について、1999年に日本で初めて若年性アルツハイマー病専門外来を順天堂大医学部付属順天堂医院に開設した新井平伊(へいい)教授に、注意すべき症状から実際の診療についてまで解説してもらいました。

男性の割合が高い若年性認知症

 若年性認知症は64歳以下で発症する認知症のことで、単独の疾患名ではありません。調査により違いはありますが、2009年に厚生労働省の研究班が行った「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」の調査結果(※)によると、全国の若年性認知症者数(18~64歳)は推計で3万7800人。推定発症年齢の平均は51.3歳。人口10万人当たり47.6人(男性57.8人、女性36.7人)です。ただ、あくまでも推計で正確な患者数は把握できておらず、実際の患者数は10万人程度ではないかと思われます。

 そもそも認知症とは何らかの原因により、生活する上で支障をきたすまでに認知機能が低下した状態を指します。前出の調査によると、若年性認知症の原因となる疾患は、血管性認知症(39.8%)が最も多く、アルツハイマー病(25.4%)、頭部外傷後遺症(7.7%)、前頭側頭葉変性症(3.7%)、アルコール性認知症(3.5%)、レビー小体型認知症(3.0%)が続きます。

 老年性(65歳以上)の認知症と比較すると、アルツハイマー病よりも血管性認知症の割合が高く、前頭側頭葉変性症が多くなっています。性別で見ると、男性は血管性認知症、次に頭部外傷後遺症が多く、女性はアルツハイマー病、次に血管性認知症が多く、交通事故などによる頭部外傷後遺症の割合は男性の3分の1です。

 認知症の症状は、中核症状と行動・心理症状(BPSD : Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に分類されます。中核症状には、新しいことが覚えられなくなったり過去のことが思い出せなくなったりする「記憶障害」、計画を立てて段取りができなくなる「実行機能障害」、知っていたものや人、言葉などが分からなくなる「失認、失行、失語」、場所や周囲の状況を正しく判断できなくなる「見当識障害」などがあります。

 BPSDには、不安、抑うつ、妄想、幻覚、徘徊(はいかい)、暴言、異食などがあり、その多くが、中核症状を抱え、周りの人や現実と折り合いをつけようとして出てくる症状です。中核症状とBPSDは、認知症の原因疾患や進行度合いにより異なり、特にBPSDはその人の性格、経験、生活環境や心理状態などが影響します。

(※)http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/h0319-2.html