「裁判所だけが弁護士の活躍の場ではない――」。さまざまな場でこう発言する川村明 アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー弁護士。川村氏は国際的な弁護士協会である国際法曹協会(IBA)の会長も務めており、世界基準で弁護士界がどうあるべきかという視点を持っている。日本の弁護士界が置かれた状況、10年間の司法制度改革について話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)

「サービスインダストリー」への自己変革
そこに弁護士界が目指すべき未来がある

かわむら・あきら/1941年生まれ。65年、京都大学法学部卒業。67年司法研修所修了、弁護士登録。同年、アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。71年、シドニー大学留学。72年、Allen Allen & Hemsley(現Allen Arthur Robinson)法律事務所勤務。76年、アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー就任。2002年、日本マクドナルドホールディングス株式会社社外取締役。11年より、国際法曹協会(IBA)会長 
Photo by Kazutoshi Sumitomo

――弁護士界はこの10年間、司法制度改革に取り組んできた。しかし、弁護士界からは弁護士人数の激増に対する不満や不安の声が上がっている。どのようにこの10年間を見ているか。

 弁護士界には弁護士職についての古い意識にこだわりがある。聖職意識だ。弁護士は国民や企業に効率的なリーガル・サービスを提供する「リーガルサービスインダストリー」の担い手としての意識改革が求められている。世界を見渡してみると、ほとんどの国で、弁護士業の業態や意識が変わっていっている。弁護士自身がサービス業として、自己改革をしていこうとしている。日本では、そういう考え方には抵抗が強い。

 司法制度改革は基本的に正しい。ただし、一つだけ間違っていたのではないかと思う点は、弁護士養成を司法研修所に一本化してしまったことだ。これを「統一修習」という。検察官になりたい人、裁判官になりたい人、弁護士になりたい人、みんな一緒に研修する。しかも、その費用は最高裁判所の予算だ。

 司法試験合格者数毎年3000人への増員という政策目的には、さまざまなバックグラウンドを持つ、多様な能力を持つ法曹のプロフェッションを輩出するということがあった。しかし、これを、みんな一緒にして1年間最高裁の裁判教育を受けさせる。そこに時代の要請と供給のミスマッチがあるのではないかと思う。

 統一修習制度には、司法制度改革の当初から異論があった。ところが、検察や裁判所にとっても統一修習は司法試験合格者を一同に集め、優秀な若手を検察や裁判所に引き抜くという、一種のリクルーティングの場としての機能を担っていたし、弁護士界からも統一修習による法曹三者の一体感が司法独立の要だという意識が強かった。