お財布に本当に必要なものとは?
ボクは雨宮さまの奥さまがいらっしゃるタイミングを見計らって。お部屋にロゼワインとお手紙をお持ちした。
「うれしい! ありがとう」
若々しくて素敵な奥さまだった。
「奥さま、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます。そういえば石川さん、さっき主人から、このお財布の話を聞いたんですって?」
「はい。ステキなお話で感動しました」
奥さまは笑いながら、
「私は、新しいのを買っていいって言っているのよ。でも、主人ったら『この財布じゃないとダメなんだ』って言って聞かないの」
と、どこかうれしそうに話してくれた。
すると、雨宮さまが会話に入ってきた。
「いやいや、財布は所持金を管理する道具にすぎないんだから、本人が気に入っているなら何だっていいんだよ」
その言葉にボクは驚いた。
「え? 何でもいいんですか?」
「自分にとって管理しやすいものであれば、何でもいいんじゃないかな」
「つまり、雨宮さまはお財布の使い方を大切になさっているのですね」
「何でもそうだけど、所有しているモノは大切に使うしかないと思うな。その点、この財布は使っていて気持ちがいいんだよ」
「気持ちがいい?」
「そう! だから、お金も道具にすぎないんだけど、家内からもらった長年使っているこの財布に入ったお金は、自分の人生にとって意味のあるものにしか使いたくないんだよね。一番信頼している家内からのプレゼントだからね」
「もう、この話、私、何度聞いたかしら……」
そう奥さまはちょっとあきれ気味な声では言うものの、うれしそうだ。
雨宮さまのボロボロの財布には物語がある。
それも年を重ねるごとに輝きが増す物語。
買った時の値段より高い修理代を惜しまない理由が、やっとわかった。
単なる精神論として「お金を大切にする」という表面的なものではなく、「お金や所有物は大切に使う」ということを現実に行動として表しているんだ。
そんな雨宮さまが周りから信頼を勝ち得るのは必然なのだ。
それに比べ、ボクときたら、何の物語もない、ただ高価なだけの高級ブランドの長財布をローンを組んでまで買って……。そのうえ、誰からの信頼も得ていないんだから、お金が増えていくわけがない。