大切なのは財布ではなく、お金の使い方
休憩室に入り、ひと息つくと、おじいがボクの頭の上に現れた。
タイチ「お金の本質、2つともわかったよ」
おじいがうなずく気配がした。
タイチ「1つは、財布そのものではなく、『お金の使い方が大切』ということだね。だから、お札を入れる向きとか、カードの枚数とかは意味がないと。
2つめは、お金=信頼ということでしょ?」
おじい「特に『人』への信頼だ。お金とは信頼の結晶だからね。
心地よい感情が流れるコトやモノにお金は流れる。
人がお金を使う時は、モノを買う時でもコト(体験)やサービスを買う時でも、最終的にはそれを提供してくれた『人』に払うんだよ。高いブランド品でも、それを売る人がぶっきらぼうだったら安心できないし、信頼すらできないから買いたくなくなるものだ。つまり、お金を使う時は感情で判断するもので、人から得られる感動がお金の流れの本質だ。
すなわち感動とは、『お金を払いたいという感情が動く』ことなんだ」
タイチ「そっか……。どんな人を信頼できるのかと言えば、雨宮さまのような人だ。
人としてかもしだされている雰囲気がそう感じさせるのはもちろんだけど、お財布のエピソードを聞いただけで感動させられちゃうから、この人を信じて大丈夫、って気持ちになるんだね」
おじい「そもそも、お金は人さまからもらうものだからね」
タイチ「そうなんだよな。最近はネットで何でも買えて、人を介する機会が少なくなってきているけど、商売の根底にあるのは相手への信頼だよなあ」
おじい「それはさっきタイチも体験したばかりだな」
タイチ「えっ、何を?」
おじい「お金をもらっただろ?」
タイチ「チップか!」
おじい「あれは、雨宮さんがタイチのことを信頼したからだ。
成功者は常に本質を見抜いているから、自分も成功者になりたいなら同じ視点を持てるようになれ。でなければ、そもそも相手にされないだろう。成功者は単に相性や好みが合うからつながる訳ではないんだ」
タイチ「相手にされない、か……」
雨宮さまの場合、「お金は扱い方じゃなくて使い方が大切」という本質を見抜ける人だけがあの財布の価値がわかり、その生き方を信用するから、結果的にそういう人ばかりが周りに集まって成功しているのだろうな。
おじいとの対話を終えて休憩室を出たボクは、エクゼクティブフロアの廊下で小柄でふくよかな老婦人を見かけた。
部屋へ入る老婦人の左手には、なんとジッパー付きのポリ袋。そう、食品の鮮度を保つために使う、1枚10円もしない袋だ。そして、そのポリ袋には何枚もの1万円札が入っていた……。
彼女も、きっと成功者なんだろう。
お金の使い方さえ理解していれば、財布なんて何だっていいんだ!