――一般的なフランス人は、日本人にどんなイメージを抱いているのでしょう?

ギレー:一般のフランス人は、日本人というと勤勉で礼儀正しく、日本の伝統工芸がそうであるように人々も洗練されていると思う一方で、若い人たちのコスプレなどエキセントリックな一面も思い浮かべるのではないでしょうか。
 今の若い世代は生まれた時から日本のアニメで育っていますから、日本人に親近感を抱いています。

――では、あなた自身が抱く日本人のイメージとはどんなものでしょうか?

ギレー:私は福岡に3ヵ月住んだことがあります。
 その経験から思うのは、日本人こそ猫に近い人たちなのではないかということです。
 現代のフランス人が抱えている大きな問題はストレスです。もっと早く仕事をして、もっと収益をあげて、職場でも家庭でももっといい人間関係を築いて……と、果てしない努力目標が次々と立ち現れて、休む間がないのです。
 確かにフランス人は年間5週間ある休暇を完全に消化しますが、管理職にもなれば自宅にいるときも休暇中もスマートフォンを手に仕事のことを考えているような状態です。のんびりと楽な生き方とは正反対なのです。
 そして、昨日を悔い明日を思い悩むばかりで、今日のことを忘れていることに皆、気がつきません。本当に大事なのは今この時、この時間を自分のために生きることなのではないでしょうか。
 日本人を見ていると、電車の中で数分間の軽い睡眠をとったり、他人を気遣ってハーモニーを大事にし、それがその場の雰囲気を悪くしないことにつながったりというように、今の時間をいつくしんでいると思えるのです。
『猫はためらわずにノンと言う』88ページ「眠る猫が教えてくれたこと」と、95ページ「争いを避けるのには理由がある」をもう一度、読んでみてください。私には日本人のイメージにぴったりに感じられますよ。

 猫のように生きているのは、フランス人よりむしろ日本人のほうだというギレー氏の答えを意外だと思う人のほうが多いことだろう。
 言われてみれば、電車やバスの中での居眠りは日本名物ともいえるほど海外では有名だ。
 それは住宅事情が悪く、通勤時間がかかるから朝早く起きなければならないのだとか、残業が多い上、付き合いの飲酒を断れず精神的にも肉体的にも疲労困憊して電車の中で眠ってしまうのだとか言われてきた。また日本では電車の中にスリ被害の心配がないので安心して眠れるのだという説明もよく聞くものだ。
 しかし、ギレー氏に、それは電車を降りた後の仕事のことで頭を悩ませるかわりに、「ひと眠りして英気を養う猫の知恵」だなんて指摘されると、そうかもしれないと思えてくるから不思議だ。
 そういえば私が初めてパリへ行ったとき、空港からパリ市内への移動がちょうど朝の通勤時間帯にぶつかってしまった。郊外電車で移動しながら、フランス人はどうして皆一様に苦虫をかみつぶしたような悲壮な顔をしているのだろうと思ったものだ。日本の電車はいくら混んでいても、フランスでのような圧迫感や緊張感を感じることはない。
 ギレー氏によれば、現代フランス社会を蝕んでいるストレスを「カイゼン」するためのキーワードは「スロー」だという。「スローフード」「スローライフ」に見られる概念だ。
猫のように自分のことを第一に考え、自分のためにもう少し時間をかける「スロー」な生活ができれば、人生は確実に今より楽になるのだろう。