フランス人フリージャーナリスト。現在は若者向けドキュメンタリーやレンヌ女性収監者の新聞を主宰している。
「最初は、女友達の家に置いてあったこの本を手に取って何の気なしにパラパラとめくってみたのです。さらりと読めてなかなか面白いと思いました。フランスであっという間に版を重ねていく中で、著者のステファン・ガルニエ氏のインタビュー記事を書こうと思ったわけです」
と、ギレー氏。そして彼女から逆に質問されることとなった。
「裕美さん、あなたは、ガルニエ氏と会ったんですよね? 私は電話でしか話していないのだけれど、どんな人でしたか?」
私が「ガルニエ氏はノリのいいリズミカルな話し方が特徴的だけど、それは彼がレコーディングエンジニアだからなのかもね」と言うと、彼女は納得した様子でうなずいた。
続けて私は、いくつかの質問をさせてもらった。
――フランスにも自己啓発本の類はたくさんありますが、その中でこの本が特に読まれているのはどうしてでしょうか?
ギレー:猫は身近にいて、誰もがその行動をたやすくイメージできます。
他の自己啓発本のように高く大きな目標を掲げていたり、難しいことを言われたりすると途中でついていけなくなってしまうんですね。そして書いてあることができない自分に後ろめたさや自己嫌悪感を抱いてしまいます。
しかし、そこにいる猫をまねするだけでいいなら簡単にできそうじゃないですか(笑)。
もちろん、口をきかない猫ですから、著者のイマジネーションも多分に入っているわけですが、それはさておき出発点が猫だというのが実にいい、といったところでしょうね。
――日本人には、フランスは自由の国だというイメージがあります。
だからフランス人も猫のように自由で、「ノン」と言うのに日本人ほどためらったりしないのではないかと思っていました。
わざわざ猫から学ぶことなどないような気がしていたのですが。
ギレー:あるとき外国の人に、「フランスは王様の首を切り落とした国」と言われてハッとさせられた経験があります。
フランスは自由の国だというよりは自由を「求め」ようとしている国だと考えたほうがいいかもしれません。まだ道半ばなんです。
猫のような自由なんて、人間には夢ですよね。
この本は、フランスでは女性読者に好まれています。現在フランスの女性はほぼ全員が職業を持ち、結婚・出産・育児の間も離職することなく働いています。
給料や昇進の機会に男女の差はありません。
仕事の上で上司に従うことや嫌な同僚がいたら我慢しなくてはならないのも男女同じなんです。
機会均等と言えば聞こえはいいですが、現実に女性は社会で男性と同様に働く一方で、家庭に戻れば家事、育児の実に8割を担っているという統計もあります。
つまり、この本で触れられているような、「嫌なことをはっきり拒否する」「自分の領分を他人に侵されないようにする」といったことがまだまだできていないのが現状なのです。
ですから実態として、フランス人女性が猫に学ばなければならないところが実に多いといえるのです。