ニッチ商品かと思いきや、ソニー、BOSE、JBLと、メジャーどころが製品を立て続けに繰り出し、突如ウェアラブルオーディオの一大ジャンルになってしまった、肩掛け式スピーカー。この先、忽然と消えはしないかという不安もないではないが、現状の製品が向いている方向は三社三様。それぞれのメーカーのカラーが出ている点でも興味深い。

 今回は最後にやってきたJBL「SOUNDGEAR(サウンドギア)」を試した。公式通販価格は2万1470円と、ほかより安い設定。そしてJBLらしさを体現したストレートな音が身上だ。既存のソニー「SRS-WS1」、BOSE「SOUNDWEAR COMPANION SPEAKER」と比較しながら、ポジションを探って行こう。

JBL肩掛けスピーカーはソニー・BOSEと比べてヘッドフォンライクに使える

Bluetooth対応トランスミッター付きもスペックに見劣り?

 SOUNDGEARの無線接続は、一般的なBluetooth。マイク内蔵でヘッドセットにもなる、スマートフォンやタブレットで便利な仕様。もちろんスピーカー側から音量や選曲操作もできる。

 カラーバリエーションはブラックと、6月下旬発売予定となっているグレーの2色。スピーカー単品のほか、Bluetoothトランスミッターとのセット品「SOUNDGEAR BTA」もある。これはテレビなどBluetooth機能のない機器で使うためで、接続に必要な光デジタルケーブルや、3.5mmステレオミニケーブル、給電用のUSBケーブルも一式付いてくる。公式通販価格は2万6870円。

JBL肩掛けスピーカーはソニー・BOSEと比べてヘッドフォンライクに使える

 スピーカー単品売りの通常版も含め、スピーカー本体、トランスミッターともに音声コーデックはSBCと低遅延のaptXに対応。動画の音ズレはないが、やはりゲームのリアルタイムな効果音には微妙な遅れを感じるので念のため。

 スピーカー本体は、USBケーブルによる2時間のフルチャージで6時間動作する。動作時間はBOSEの12時間に比べると半分しかない。そして重量はカタログ値で370g。BOSEの260gよりも110g重い。でも、これらには理由がある。

JBL肩掛けスピーカーはソニー・BOSEと比べてヘッドフォンライクに使える
JBL肩掛けスピーカーはソニー・BOSEと比べてヘッドフォンライクに使える

合計4基のドライバーにハイパワー

 スピーカーとアンプのスペックを見ると「そうきましたか、さすがJBL!」というわかりやすい仕様なのだ。31mm径ドライバーを左右に2発ずつ、それを3W+3Wのアンプでドライブ。このドライバーの数と出力が、重量とバッテリー持続時間に現れているのだろう。

 たとえばソニーなら1W+1W。BOSEは出力を公表していないが、実際の音量でJBLに及ばない。そして、ソニーもBOSEもドライバーは左右に1発ずつ。どちらも離れて聴くとスカスカの音になってしまうが、机の上に置いても、JBLはそのままBluetoothスピーカーとして使えてしまうくらい音もデカいし、バランスもいい。

 首にかけた際の低域も、必要にして十分。いつものように低音盛りまくりのBOSEや、低域を直接身体に伝えるバイブレーター内蔵のソニーに比べると、不自然さがない。余裕のパワーからくるパンチの強さ、音圧感の高さが魅力だ。

 BOSEと比較した場合は、ステレオの音場感もいい。スリットを設けてドライバーを横向きにするなど、工夫された設計のソニーには及ばないところもある。が、音楽観賞用としてならヘッドフォンより自然な音場感が得られる。

 ソニー、BOSEと3機種の中でどれか選べと言われたら、私はこれにしたい。ただし、それは音に限った話。それ以外の部分では、いくつか不満もある。

首が太いとNGかも

 まず、装着のたびに痛い思いをする。頭の後ろから勢いよく被ろうとして、スピーカーの突端を後頭部に何度も突き刺してしまった。この馬蹄形のスピーカーは、開口部が少々狭いのだ。間隔は、実測で8.5cm程度。

JBL肩掛けスピーカーはソニー・BOSEと比べてヘッドフォンライクに使える

 力を入れれば1cmくらいは広げることもできるが、ほぼ剛体なので無理は効かない。首の後ろからそっと差し込むように装着すれば大丈夫だが、ソニーやBOSEに慣れていると、あまりの不自由さに驚く。

 ちなみにソニーは幅の広いU字型で、どこに当たることもなく、そのまま肩にかけられる。

テレビの音質に不満ならソニーの肩掛けスピーカーを試してほしい

 BOSEは本体がグニャグニャの柔構造で、思い切り閉じたり開いたりができる。だから、こうした使いにくさは経験したことがないので、意識して装着する必要があった。

JBL肩掛けスピーカーはソニー・BOSEと比べてヘッドフォンライクに使える
JBL肩掛けスピーカーはソニー・BOSEと比べてヘッドフォンライクに使える

 筐体デザインに関連する、もうひとつの難がある。開口部の先を覆うカバーのネットが、顎や頬に触れやすいのだ。女性だったらファンデーションが付きやすいだろうし、そうじゃなくても汚れてくる。ところが、どうやら取り外して洗うことはできない。残念ながらウェアラブル機器のプロダクトデザインとして満点はあげられない。

 ついでにもうひとつ文句を言うと、電源投入時に鳴る効果音は、ボリュームを絞っておいても常に最大音量なので、うるさい。JBLに限らず昔から海外のBluetooth製品に多いパターンだが、誰もクレームを入れないのだろうか。あれがまた鳴るのかと思うと、夜中にスイッチを入れるのもためらわれ、利用機会も確実に減るのだから、真っ先にどうにかしていただきたい。

オープンエア型ヘッドフォン進化形か?

 さて首かけ式スピーカー、何を選べばいいのか、これではっきりした。

 ソニーは低遅延がウリ。今は品薄で不当に高いし、まったく買いどきではないが、ゲームをやるならソニー一択。そのための専用ワイヤレス仕様だ。音場の広さも抜きん出ていて、左右ユニットの外側にも定位を感じるくらい。もちろん大画面での映画鑑賞にももってこいだ。問題は低域の再現性で、震えるだけで音と結びつかない低域は、映画の効果音には良くても、音楽には不自然。そしてBluetoothじゃないのでスマートフォンと無線でつながらない。

 Bluetoothがいいと言うなら、BOSEかJBLということになる。外に持ち出すなら、防滴仕様でグニャグニャ曲げられるBOSEに分がある。カバーは取り外し可能で洗濯もできるし、着脱も楽だ。行き届いたリサーチには感心するばかり。しかし価格が高い。公式通販価格は3万4560円。そしてBOSEの音が嫌だと言う人もいるだろう。

 だったらJBLが安い。実は、肩掛け式スピーカーには、これだという利用シーンがなかなかない。音漏れしかしないヘッドフォンのようなものだから、家族のいるリビングや、深夜の映画鑑賞には使いにくい。ならばヘッドフォンの方がマシだし、個室で使うならスピーカーでいいということになる。

 でも、ヘッドフォンにはない音場感があり、またスピーカーのように三角形の頂点にいなくても、満足感が得られる。それがSOUNDGEARを使う動機になると思う。つまり音場感が改善されたオープンエア型ヘッドフォンのようなもの。できれば夜、自室で使いたい。だから起動音、あれをはやくなんとかしてほしい。

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四本 淑三(よつもと としみ)

北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。