不合理な行動をしがちな人間を
正しい方向に誘導する「Nudge」
2017年のノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学経営大学院教授のリチャード・セイラー氏の著書に「Nudge」という本がある。以前にもこのコラムで紹介したことがあるが、Nudge(ナッジ)というのは肘で突っつくという意味であり、人間は放っておくと不合理な行動をしがちなので、正しい方向へ行くように自然に誘導するという考え方を表している。この考え方は実はいろんなところで活用されている。
例えば自分が死んだ後の臓器提供について言えば、わが国の場合、意思表示をしている人の割合は12.7%である(内閣府2017年8月調査より)。ところが、諸外国の中には、9割を超えている国も少なくない。
これは、別に日本人が薄情だということではなく、日本の場合はオプトイン方式といって、「提供したいという意思表示をしない限り、臓器提供はしない」という方式であるのに対して、比率の高い国では「臓器提供は嫌だという意思表示をしない限り、提供してもいい」という意思表示をしたと見なされる仕組みになっているためだ。
このように、人間の行動をある特定の方向へ誘導するために表示の仕方を変えたり、ルールを変えたりすることはよく行われている。2018年5月から施行された確定拠出年金法の一部改正においても、「指定運用方法」という制度が取り入れられているが、これもまさにNudgeの考え方に基づいている。