一地方公務員の横領事件に
今、あえて注目する意味
7月4日夕刻、メディア各社は東京・北区職員による生活保護費横領を報道した。40代職員・A氏が約6500万円、すでに退職している60代職員・B氏が約1300万円を着服していたという。A氏は、生活保護ケースワーカーを指導する査察指導員の立場にあった。
私は本記事を執筆しながら、「行政職員による保護費の横領は、今、どうしても取り上げるべきテーマだろうか」と悩んでいる。この問題への関心が高まれば、他の問題への関心が奪われるからだ。
同じ7月4日には、文科省局長(当時)が子どもの入試合格と見返りに東京医大に便宜を図った事件が報道された。翌日の7月5日には西日本豪雨の見通しが発表され、翌々日の7月6日には元オウムの幹部7名の死刑が報道された。現在は、西日本豪雨の不明者捜索や「その後」が喫緊の課題だ。
そのような日々が続く中、10日にはカジノ法案が参院内閣委員会で審議入りしている。5日に衆院で可決された水道法改正案(水道民営化を含む)ともども、延長された国会会期末の7月20日までに成立する可能性が高い。
行政職員による保護費の横領は、平均して年間数件程度であるが、発生している。それらは、国会で進行中の法案審議に比べて、注目すべき事案と言えるだろうか。とはいえ、金額は莫大になりがちだ。生活保護で暮らす個人の不正受給は1件あたり平均約38万円(2016年度)だが、行政職員の事件で横領される保護費は、まさに「ケタ違い」。
現在のところ金額で最大となっているのは、2013年の大阪・河内長野市の事例で、約4億3000万円が横領されている。横領された保護費は、生活保護を必要としている人のために使えたはずだ。しかし、1件あたりの平均金額と頻度で言えば、医療機関や施設による生活保護の不適切利用の方が、より大きな問題だろう。
ポイントはおそらく、個々の問題の優先順位を比較することではなく、すべての問題を「日本の大きな歪みの一側面」として捉えることにある。今回は、なるべく「日本の大きな歪みがどう反映されているか」という観点を心がけつつ、東京・北区の生活保護費横領のうち、A氏の事例を検証する。