福祉事務所とケースワーカーは、生活保護受給者が直接接する窓口であるだけではない。生活保護制度の実際の運用を行い、生活保護費の支出、つまり福祉への税の使用を直接決定・処理する重要な存在である。
今回は、東京都・江戸川区の福祉事務所の日常を通じて、生活保護制度を支える側の素顔に迫ってみたい。
「頭が切り替わらない」が悩み
福祉事務所とケースワーカーの多忙な日常
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江戸川区には、3つの福祉事務所がある。正式名称は「福祉部生活援護第一課・第二課・第三課」である。「福祉を受ける」を余儀なくされる人々の意識を「役所から必要なサービスを受ける」へと変えるために、その名称も少しは役に立っているかもしれない。以下、本文中では「福祉事務所」と呼ぶ。
3つの福祉事務所には、合わせて233名の常勤スタッフがいる。165名のケースワーカーの他に、経理など福祉事務所の運営に欠かせない業務を担当する事務職員が含まれている。各福祉事務所は、平均55名のケースワーカーが約4600世帯の生活保護受給世帯に対応する体制となっている。以下、今回はケースワーカーの立場を通しての記述なので、生活保護受給者を「ケース」と表記する。
ケースワーカーの勤務時間は、朝8時30分から夕方5時15分である。この勤務時間の間に行わなくてはならない業務は、非常に多種多様である。
まず、「生活保護を受給したい」という住民や、担当ケースの相談に乗る必要がある。対面相談である場合も、電話での相談の場合もある。対面相談は、1人1回あたり30分以上かかることもある。
重要な職務の1つに、担当ケースの訪問がある。少なくとも、1ケースに対して年に2回以上の訪問調査を行うことが義務付けられている(注1)。江戸川区では、少なくとも毎年4月の時点では、ケースワーカー1人あたりの受け持ちケース数が80世帯を超えないように配慮している(注2)。80世帯に対して1年間に2回の訪問を行うとすれば、一人のケースワーカーが、一年間に160回の訪問を行うことになる。実際には、一年に三回以上の訪問を必要とするケースも少なくない。
相談や訪問の合間を縫って、ケースの経過記録を書く。
さらに、生活保護費の算定を行う。生活保護費の基本部分(生活扶助+住宅扶助)は、年齢・居住地などに基づいて決まる。しかし、「入院した」「施設に一時入所した」といった事態が発生すれば、その事態に対応した再計算を行わなくてはならない。また、就労しているケースに対しては、必要経費等の控除の計算が必要になる。生活保護費の算定の実際は、極めて困難かつ煩雑なのだ。
(注1)厚生労働省社会・援護局保護課長通知による(「生活保護手帳」2011年度版)。
(注2)社会福祉法第16条が定める基準による。