クアラルンプール国際空港では、メディカルツーリズムに関する広告が目に付く

 マレーシアのクアラルンプール国際空港では、入国審査カウンターに向かう途中で、変わった写真群を目にすることになる。

 最新の医療機器、ずらりと並ぶCT画像、微笑む医師や看護師、満足気にベッドに横たわる患者の写真などだ。マレーシアの病院や政府機関などによるメディカルツーリズム(医療観光)の広告だ。

 メディカルツーリズムとは、病気の治療や検査のために海外の医療機関を受診すること。東南アジアや中南米の諸国では、メディカルツーリズムを外貨獲得の手段として産業化し、外国人患者の受け入れを積極的に行っている。

 マレーシアは、2009年3月に保健省傘下にメディカルツーリズム専用の推進組織「MMTC(The Malaysia Healthcare Travel Council、マレーシア医療観光協会)を設立。 2010年にメディカルツーリズム専用の公式ウェブサイトを開設し、その事業拡大に本腰を入れている。

 メディカルツーリズムに詳しい多摩大学の真野俊樹教授は、「かつてマレーシアはタイやシンガポールに比べると、メディカルツーリズムの体制は遅れていた。それが最近、国家の重点経済分野の一つとして位置づけ、成長産業として育成している」と説明する。

 マレーシア政府は、「特に日本人の患者をターゲットとする医療体制を整備し、マーケティング活動を積極的に行いたい」(MHTC幹部)という方針を打ち出している。

 日本人の患者がターゲット?多くの人は疑問に思うに違いない。

 日本は国民皆保険制度を導入していて、原則として治療費の3割負担で良質な医療が、全国のどこの医療機関でも受けられる。民間保険中心で医療格差が激しい米国などとは違い、臓器移植などの特別な領域を除き、わざわざ外国まで治療を受けに行く患者はいないのではないか、と思うだろう。