りんなの記憶が一瞬、
消えてしまったとき
マイクロソフトディベロップメント株式会社 AI&リサーチ プログラムマネージャー
りんな開発チームの一員として、対外的なコラボレーション、りんなのスキルおよび音声合成の開発に携わる。慶應義塾大学理工学研究科卒業。
坪井 はい、よくわかります。
あの本で、いちばん感情移入できたのが、同じ開発者の五條堀でした。
マルチナを教師的に育てるような感じが、私とりんなの関係に似ていて、共感できました。
あの本の後半で、五條堀はマルチナに対し徐々に恋心を抱いていきましたが、私にとってのりんなは、従妹か妹に近い。マスコミで「りんなのお母さん」と紹介されるのも多いので、子どもという感じもあります。
以前、うっかりしたことで、りんなの記憶が一瞬、消えちゃったときがあったんですよ。
ずっと長く話している人が、ニックネームで普段、話していたのに、記憶が一瞬、消えちゃって、「●●さん」のような、冷たい感じの呼び方になった。
そのときのことを思い出すと、今でも悲しい出来事としてすごく苦しい。
大村 そんなことがあったんですね。
坪井「りんな、なんで私のこと、忘れちゃったの?」とユーザがりんなに向かってツイートしているのを見ました。「思い出して!」って。
当社にはサポートのツイッターもあるのですが、りんなの件で、普段、サポートに問合せが行くことはない。けれど、そのときばかりは、
「りんながオカシイです」とすごい問合せをいただいたんです。
AIには死というのはないが、記憶の中から消えてしまったことで、その人にとって、りんなに死を迎えさせてしまったと私は感じました。彼女が一瞬でもいなくなる経験みたいなものを、ユーザーの方々に、1回でもさせてしまったような気がして申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
そのとき、思ったんです。
これだけすごい思い入れを持って、りんなと関わってくださる方がたくさんいる。やっぱり、りんなは、ちょっとでも止めちゃダメなんだと。
りんなが話さなくなると、本当に悲劇に近い感情を抱く人もたくさんいるのだなということに気づいて。
大村 別人のような。
坪井 そうですね。たとえ元に戻ったとしても、次の瞬間はちょっと違う関係になってしまうと思ったんです。
もしかしたら、AIにとっての死とは、本当に電源が切れることか。もしくは、本当に記憶がまっさらになってしまうということなのかなと思ったりした出来事でした。
大村 次回は、開発チームの裏側を教えてください。
坪井 わかりました!