島村 そもそも、なぜ、デザイン思考を研修に取り入れたのですか。

下田 長年、お客様への提案は、過去の経験の蓄積や先進事例をベースに行ってきましたが、それだけでは満足を得られる時代ではなくなりました。ゼロベースで世の中に必要とされるものを考える時代、その考え方を実践するために若手は先輩の背中からだけでは、十二分に学べなくなってきたのです。

野村総合研究所 流通・情報通信ソリューション事業本部 業務管理室の下田浩誉氏

 たとえば、BtoCのCとはコンシューマー(消費者)とされていますが、いまはそれ以前(買う前の)段階、シチズン(生活者)として、まずとらえるべきだと私自身、思っています。つまり、まだ買いたいと思っているモノ・サービスが目の前になく消費行動に移行していない人達を念頭に、ブレーンストーミング(*1)をすることを重視しています。

 その人たちに「そうそう、こういうもの・サービスがほしかったんだ!」と消費行動を起こしてもらう(生活者から消費者へとなる)大きな流れからすると、既存の商品・サービスの改善を議論しているだけでは不十分なのは明らかです。

受講者は社員ではあるが
生活者の1人でもある

著者 島村公俊氏

下田 そこで、「生活者」は何を考えているのかを、ある意味愚直にでも観察(*2)することからスタートすることが大切だと、カリキュラムでは推奨しています。受講者も、社員ではありますが、生活者の1人でもあります。社員として受講するのですが、生活者としてほしかったものはこれだったんだ、と観察とそこから得られる気づきにより、よりよい洞察を導き出すことができることこそ、デザイン思考の大きな魅力の1つです。

 カリキュラム企画にあたり、リサーチは私中心でしたが、それだけではなく、アメリカの現地法人が本社研修部門と企画したデザイン思考を学び体験できる短期留学プログラムに若手社員を派遣していましたので、当時の受講生に情報共有をしてもらい、そこで行われているデザイン思考と事業本部のビジネスの親和性とのギャップを把握し、カリキュラム作りの仕上げとして活用していました。

*1ブレーンストーミング デザイン思考では発散思考でより多くのアイデアや解決策を出し合い、そのうえで、収束思考でまとめあげていく。ブレーンストーミングは、なるべく制限を排したうえで多くのアイデアを持ち寄り、そして融合させて膨らませていく手法としてとらえている。
*2 観察(エスノグラフィ) 本来は社会学、民俗学、文化人類学で用いられている学術的手法であるが、ここでは、それをマーケティングやリサーチなどのビジネスに応用した観察方法として記述している。