ペットのように家庭で愛される存在に育ったルンバ

 外資系企業として日本市場に参入し、結果的に市場を掌握したもう一つの掃除機がある。米アイロボット社によるロボット掃除機「ルンバ」だ。

 日本での発売は04年だったが、ロボット掃除機というこれまで市場になかった商品は当初なかなか理解されず、5年間は鳴かず飛ばずの状態が続く。その間も東急ハンズなどの店頭で実演販売を地道に続け、さらに当時ルンバを購入した顧客との結び付きを強めていったのだ。

 もともとアイロボット社は軍事用ロボットの開発メーカーで、初期のルンバは製品としての完成度は低かったが、顧客の声を聞き少しずつ改善を重ねた。

 「ダストボックスがすぐにいっぱいになってしまう」という声に応えて、ダストボックスの大容量化を行い、「排気で空気が汚れる」という苦情に対応するためダストボックス内にフィルターを設置した。ちなみに、姉妹製品の雑巾がけロボット「ブラーバ」も、日本市場の雑巾がけ掃除への要望に対応するために作られた。

 ルンバの“オーナー”向けのファンイベントなども開催した。エンジニアとの交流イベントをはじめ、ルンバやアイロボット社の他のロボットを分解して技術を紹介するメカ好きのためのイベントや、初心者向けのものを織り交ぜて開催するなど工夫を凝らした。

 そのうち、ルンバに名前を付けたり、ルンバの様子をSNSにアップしたりと、あたかも“ペット”のように親近感を抱くユーザーも増えた。09年から広告投資を増加したことも相まって、売り上げが急増。16年には累積出荷台数で200万台を記録した。

 結果的に、アイロボット社にとって日本は世界で2番目の市場に成長した。17年4月には日本支社も開設し、「今後ルンバの世帯普及率を3~5年以内で10%にまで上げていく」(挽野元・アイロボットジャパン社長)という。

 世界一厳しい市場といわれる日本で、“強豪”だったはずの日本メーカーに伍して市場シェアを握ったダイソンとアイロボット社。意外にも勝敗を分けたのは、本来日本のおはこだったはずの「きめ細かく顧客の声を聞く」ことだったのだ。