製造技術は刷新できる

 プロセス技術の成熟度が高い業界では、ともすればプロセス・イノベーションの可能性から目を背け、製造のアウトソーシングや海外移転によってコストを下げようとする。

 しかし、時として画期的なプロセス技術が生まれる場合もありうる。既存企業がこの可能性を軽く見ると、競争上の形勢が悪化するか、新しいビジネスチャンスを追求できなくなる。これは、鉄鋼、繊維、コンタクト・レンズ、家電製品などの分野で現実のこととなった。

「自律度の低下」を警戒しておく

 新技術の登場により、製品設計と製造プロセスの相互依存性が著しく高まる場合がある。ジェット旅客機を考えるとよい。この分野では、何十年も前から設計と製造が分離していた。

 ボーイングは、ジェット機の開発と製造のかなりの部分を世界各地の下請け企業に委託し、組み立てだけをワシントン州の自社工場で行っていた。ところが、〈ボーイング787〉(愛称ドリームライナー)に関しては、従来のアルミニウム合金ではなく炭素繊維複合材を素材として用いたため、事情が変わった。

 設計と製造の分離を前提としたそれまでの設計ルールは、全体として見た場合、応力伝達や荷重を十分計算に入れておらず、ボーイングは当初これらの要件を満たせなかった。

 その結果、アレーニア・アエロナウティカ製の水平尾翼や三菱重工業製の主翼ボックスなど、個々の部品を集めて機体を組み立てる段になって、作業が行き詰まった。設計と製造でかなりの手直しが必要となり、開発スケジュールが大幅に遅れた。

自律度が低いことのメリットを無駄にしない

 多くの企業が見落としているが、製品設計と製造プロセスが切っても切れない関係にある場合、実は手強い参入障壁となる。なぜなら、新規参入する側は、製品技術、プロセス技術、さらには両者の相互作用に熟達しなければならないからである。したがって、既存企業は製造のアウトソーシングを避けるべきである。

 一般的に、他社の製造プロセスを解き明かすよりも、製品設計のリバース・エンジニアリング(他社製品を分解して、その製造方法を明らかにすること)のほうがよほど簡単である。

 だからこそ、エルメネジルド・ゼニア、アルマーニ、サルヴァトーレフェラガモ、マックスマーラなどのファッション・メーカーは、高コストになることを承知で、高級品の大部分をイタリア国内で製造している。そのほうが、自社独自のデザインが盗まれるのを防いだり、模倣される可能性を小さくしたりしやすい。

製造のケイパビリティは手に入れにくいが、失うのはあっと言う間である

 製造のケイパビリティやそれに関連するサプライチェーンを構築するには、何十年もかかることもある。だからこそ、大きな優位性をもたらす。製造のアウトソーシングは往々にして後戻りが利かず、ひとたびアウトソーシングすると、2度と自社製造に戻せない可能性もある。

 そこで、アメリカ企業では、昨今「インソーシング」が議論されている。いったんは海外にアウトソーシングした製造活動を国内に戻してはどうかというのである。

 これはおそらく一筋縄ではいかないだろう。多くの地域では、サプライヤー、熟練労働者、オペレーションを担当した経験のあるマネジャーなど、製造活動に欠かせない「産業コモンズ」(共有財産)がかなり前に失われてしまっている。