『経済学者たちの日米開戦』(牧野邦昭著)は、現代の視点から見れば「非合理の極致」である対米開戦を日本の指導層が選んでしまった原因を、行動経済学などを用いながら考察している。現代にも通じるリスクがそこに見られるため、ポイントを紹介してみよう。
本書は、戦前の日本の上層部は、米国と日本の間に圧倒的な生産能力の差があり、開戦は無謀であることを警告する情報を実は数多く持っていた、と指摘している。
例えば、昭和15~17(1940~42)年に活動した陸軍省戦争経済研究班(通称、秋丸機関)が、戦争となった場合の米英独日4カ国の経済力を一流の経済学者らに予測させた報告書もその一つである。執筆者の中には、治安維持法違反で起訴され東京大学から追われた有沢広巳もいた。軍部に迎合せず、「真実を書いてくれ」と秋丸機関に依頼されたという。
適切な情報を持っていたにもかかわらず、なぜ指導層はハワイ真珠湾攻撃に進んでしまったのか? 本書はここで行動経済学のプロスペクト理論を登場させている。
例えば、確実に3000円払わなければならないケース1と、8割の確率で4000円払い、2割の確率で1円も払わないで済むケース2があったとする。損失の期待値を計算すると1を選ぶ方が正しいのだが、人間は必ずしも合理的に判断しない。こうしたケースでは多くの人がリスク愛好家になり、2を選んでしまうという。