中小の多彩な製造業が得意分野を融通し合いながら淘汰/洗練を繰り返してきた深センの製造エコシステムは、世界有数の大企業や大学を巻き込んで、イノベーションのためのエコシステムを構築しつつある。(高須正和:メイカーフェア深セン/シンガポール)

深センの街並製造業が集積する深センでは、「ハードウエアを開発するためのハードウエア」も進化を繰り返している Photo:PIXTA

研究開発の分業
「公板」を作るIDHの存在

 ラーメン好きの多い日本では、業務用のラーメンの“タレ”があるおかげで、人気ラーメン専門店のような個性的な味ではないにしても、どんな料理店でもそこそこのラーメンを作れる。逆に、そういった業務用のタレを作る会社がなければ、料理店がメニューの数を増やしていくのは難しいだろう。

 それは研究開発でも同じだ。

 製造業が集積している珠江デルタでは、製造業向けのBtoBビジネスが発展している。深セン電気街のレポートでも触れた、コモディティー化され、モジュール化された「公板(Public Board)」もその1つだ。この部品をベースにカスタマイズすると、数人~数十人の中小企業でも独自のハードウエア製品を作ることができる。

 クアルコムやインテル、メディアテックといった半導体メーカーは、新しいプロセッサーを出すたびに、製品メーカーに「リファレンスデザイン」と呼ばれるスマホ基板やタブレット基板などの “設計図”を提供する。つまり、完成品を想定した実装例である。

 大企業はプロセッサーを単体で買い、リファレンスデザインを基に自前の製品を開発するのだが、そのうちプロセッサーを扱う商社が自ら実装した基板を売り始めた。それが公板の始まりだ。