スプリンクラーは火とともに
住環境改善の機運を消すかもしれない

 スプリンクラーの最大の問題点は、設置コスト(最低で400万円程度)だ。そして、設置コストが多大であるにもかかわらず、万能の防火対策にはなり得ず、避難までの時間稼ぎが精一杯だ。

 生活困窮者支援で長年の実績を持つ稲葉剛氏(立教大学特任准教授)が代表理事を務める「一般社会法人つくろい東京ファンド」では、東京都中野区に2014年に設置した個室シェルター「つくろいハウス」を皮切りに、新宿区・墨田区・豊島区で個室シェルターやシェアハウスを運営している。それぞれの規模は2室~7室と極めて小規模であり、「施設らしさ」はなく、通常の民営賃貸住宅に限りなく近い。それが特徴だ。

 しかし、それらの施設すべてにスプリンクラーを設置すれば、数千万円単位の費用が必要になるだろう。将来にわたる維持・管理・老朽化した場合の交換コストを考えると、設置時に助成金があったとしても、「つくろい東京ファンド」にとって重すぎる負担であることは確かだ。

 費用が低く、費用対効果が高く、継続性を期待しやすい防火対策は、数多く存在する。消火器の設置、初期消火や避難判断の訓練、避難経路の確保や避難訓練、壁やカーテンなどの難燃化、暖房や調理の可能な限りの電化など、どの世帯でも実行できそうな「ソフト」や「チリツモ」の数々だ。それらが全世帯の「当たり前」になれば、地域全体が火災に強くなる。

 すべての住民を対象としたそれらの施策の一環として、「貧」や「困」を抱えた人々の暮らしの場にはたとえば80%以上の実行を要求し、実行の様子を随時チェックすれば、万全ではなくとも十分だろう。

 しかし2015年の消防法改正で、高齢者や障害者を対象とした福祉施設に対し、小規模であってもスプリンクラーの設置義務が定められ、今年4月から義務化された。既存の施設にとっても、費用負担が問題となり、設置率は100%に達していない。また今後は、新規に小規模施設を開設したい当事者や支援者を断念に追い込む要因となりかねない。