エコシステムが
立ち上がる日は来るか

 これまで書いてきたとおり、雄安新区は、実験室というよりは実際の使用環境に近い場所だ。「一般道で実験」「市民が利用している」などのプレスリリースを打つことや動画の撮影もできるだろう。だが、ここまで読んでわかる通り、この街での成功がそのまま中国全土の一般道に投入できると考えるのは大きな間違いだ。

 これまで「実験に最適な環境」と書いてきたが、「現在の雄安新区では、自動運転や無人店舗の実験ぐらいしかやれることがない」とも言える。今の雄安新区は、不動産取引等のビジネスも厳しく規制されていて、政府関係者とそこから招待か発注されている企業以外には、そもそも雄安新区に立ち入る理由がない。政府の注入する資金が止まるとすぐに「誰にとっても価値のない街」になってしまうだろう。

 今のような技術実験場にとどまらず、深センのような巨大なエコシステムができるためには、アイデアがあり制御の難しい起業家達を含め、多くの人たちが訪れる、無秩序さもはらみつつ活気ある街になる必要がある。雄安新区がモデルとしている深センも上海の浦東もそのように発展してきた。高速道路の整備や空港建設などのような大規模インフラは強力なイニシアチブのもと一気に計画通り進めることが有効だが、研究開発やイノベーションと国家主導計画の相性が悪いことは、ダイヤモンド・オンラインの読者諸兄がご存じの通りだ。

雄安新区に掲げられているスローガンの一つ雄安新区に掲げられているスローガンの一つ。深センや浦東(上海)に並ぶ発展を目指している。

 僕は自分の仕事をうまくこなすために、“自分の選択”で深センに住んでいる。深センに住んでいるほとんどの人が「自分の選択の結果、深センに住んでいる」と言えるが、今の雄安新区の住民はほぼ“任務”として赴任している人だろう。

 誰かに命じられて住むのではなく、自分の選択としてその地を訪れ、ビジネスを始めないと街のエコシステムは生まれていかない。もちろん中国政府もそれはわかっているだろうから、どこかのタイミングで雄安新区は次の段階に入っていくのだろう。