日馬富士暴行事件では被害者だった貴ノ岩が、一転加害者となり引退に追い込まれた問題に、識者たちから「心の弱さ」「暴力の連鎖」といったコメントが寄せられている。だが、事態はこの手の話で簡単に片付けられていいものではない。(ノンフィクションライター 窪田順生)
被害者から一転、暴行・引退
元師匠はじめ有識者らが反応
これは「暴力の連鎖」なのか、はたまた「個人の暴力気質」に由来する問題なのか――。
白鵬のお説教を聞く態度が悪いと元・日馬富士にリモコンでタコ殴りにされた元・貴ノ岩が、今度は忘れ物の言い訳をした「付き人」にビンタしてしまった一件のことだ。
世間の同情を集めていた「被害者」が一転して「加害者」へという2時間サスペンスを彷彿とさせるジェットコースター的展開に、さまざまな声が寄せられている。
まず多いのは、理不尽な暴力を受けた者の気持ちを誰よりもわかっているのに、なぜこんな愚かなことをしてしまったのか、という怒りだ。
落語家・立川志らく氏も「こんな大バカ者はいない」と吐き捨て、相撲に造詣の深い漫画家・やくみつる氏は発覚直後から「さっさと荷物をまとめた方がいい」と痛烈に批判し、テレビ出演時に元・貴ノ岩が過去にも暴力を振るっていたこともにおわせた。また、師匠だった元・貴乃花など引退報告の電話を無視、テレビのインタビューでも「10年は会わない」と大激怒している。
彼らの怒りは、暴力衝動を抑えることができなかった「心の弱さ」へ向けられている。一方で、元貴ノ岩を叩かない人たちからは無力感や憤りとともに、「暴力の連鎖」が語られている。
例えば、ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏は、「純粋な暴力の連鎖にしか見えない」とコメント。ネットでも有識者らが、「根深すぎる暴力の連鎖」「やはり暴力の連鎖は断ち切れないのか」などと述べているのだ。