中国で出来上がったオーダースーツは、独自の圧縮パックで梱包して工場から顧客へ直接配送される

 客の採寸情報は、すぐに中国・大連にある自社工場の専用ラインへ送られて生産が始まり、注文の4日後には完成する。さらに、スーツを圧縮梱包してもシワができにくい「パックランナー」(写真)を開発。工場から客へ直接配送することで、物流に要する時間やコストも大幅に圧縮した。

 すでに大連の工場はフル稼働状態で、来年春に第2工場を増設し、生産能力を現在の年4万着から年10万着へ引き上げる計画だ。

 「スマート工場化を推し進め、将来は納期を(現在の最短1週間から)3日に短縮したい」(関口猛・オンワードパーソナルスタイル社長)とさらなる進化を目指す。

 スマート工場化を進めるのはオンワードだけではない。TSIホールディングスは今年11月下旬に山形県米沢市で新工場を稼働予定。「IoTを使ったスマート工場にすることで、生産性を4倍に引き上げる」(西内渉・TSIソーイング社長)と、高い目標を掲げる。

 とはいえ、ファッションテックを積極的に導入する大手はごく一部にすぎない。先行するオンワードすらオーダースーツの一部にとどまり、全社的な改革に乗り出す企業は皆無である。そんな中、海外からは大波がやって来そうだ。

 現在、アパレル業界が注目するのが米アマゾン・ドット・コムの動きだ。今年3月に同社で世界最大規模のファッション専用スタジオを都内に開設するなど、国内アパレル市場に注力している。

 さらに懸念されるのが、米国で昨年4月に発表されたファッション特化のカメラ付きAI搭載スピーカー「エコールック」の存在だ。

 ユーザーが「写真を撮って」と話し掛けると、全身写真を撮影して記録。さらに二つの着こなしを比べてどちらが良いかを助言する機能などもある。AIがユーザーの好みを学習することで、例えば欲しい商品を推奨してアマゾンでの購買を促すことも可能だろう。将来、エコールックが日本に導入されれば、国内アパレル業界に大きな影響を与えるはずだ。

 さまざまな新興勢力が台頭する中、アパレル業界の垣根を越えた争いは今後ますます過熱する。大胆な変革に乗り出さなければ淘汰は必至。改革までに残された時間はそう多くない。