フェイクニュースによる感想操作の怖さ
知らぬ間に善悪を操る刷り込み法

 山本氏は、偶像による支配体制を次のように述べています。

 偶像的対象への臨在感的把握に基づく感情移入によって生ずる空気的支配体制(*6)

 少し難しい表現ですが、これまでの分析から、次のように言い換えることができます。

 偶像の対象を恐れや救済などの感情と結び付けて理解させられ、自分の善悪の感情が現実そのもの、相手そのものという感覚を持つ。この感覚(前提)に拘束される支配体制

 偶像化とは、臨在感的な把握を極度に促進して、善悪を誘導することでもあります。

 フェイクニュースのようなウソの報道でも繰り返されると、私たちは対象と特定の感情を結び付けて、相対的な視点で対象を見ることができなくなります。マイナスの感情と結び付けられて悪の偶像となると、私たちはそれ以外の情報(例えば良い面)を一切受け付けなくなるからです。

 偶像化とは、外見・映像・情報などで人の心に感情的な前提を刷り込むことです。結び付けられた感情と逆の可能性を、私たちに検討させないための大衆扇動術なのです。

「新しい偶像」は感情移入を誘発する新種のウィルス

 山本氏は、「新しい偶像」という言葉を使っています。御真影や遺影などの存在は、写真を含めた新しい映像・図像だと言えます。

 新しい偶像の対象は、現代のメディア、テレビなどの映像文化も含まれます。これらは古代から続く偶像とは異なり、ほぼ元の姿そのままを再生できます。そのため、善悪の前提を結び付ける偶像化も、古代よりも遥かに容易なのです。

 もう一つの要素は、明治以降に黙示文学的な技術が日本に導入されたことです。黙示文学とは本来、ユダヤ教・キリスト教の古典を意味しますが、山本氏は「言葉の積み重ねで映像的にイメージを伝える技術」としてこの言葉を使用しています。

 非論理的な言葉の積みかさねが映像的に把握され、人がこれを臨在感的に把握してそれに拘束される場合があり、その典型的な例をあげれば黙示文学である(*7)。

 以上のような目で日本の新聞を読むとき、人びとはそれが、ある種の思想を黙示録的に伝達することによって、その読者に一切の論理・論証をうけつけ得ないようにして来たことの謎が解けるはずである(*8)。

 描写や図像にも隠れて思想性があり、明治維新以降に「思想を伝達する目的の描写や図像利用」が、日本に新たに導入されたと理解することもできます。新種のウィルスの日本上陸のように、黙示文学的な表現や思想を誘導する図像に日本人は免疫がなく、新しい形の空気の醸成に利用され続けている可能性があるのです。

(注)
*6 『「空気」の研究』P.73
*7 『「空気」の研究』P.214
*8 『「空気」の研究』P.215~216