なぜ、この検査が安くなる可能性があるのか。2017年10月に厚生労働省は「第3期がん対策推進基本計画」を発表した。新計画には「がんゲノム医療の推進」という言葉が加わった。網羅的がん遺伝子検査はこの“先鋒”を担い、先進医療に位置付けられるのだ。
そもそもゲノム医療とは何なのか。ゲノムとは生物の体を形作るための情報、いわば“設計図”だ。DNAや遺伝子もゲノムの一部。一人一人で異なるゲノムの情報に基づき、患者それぞれに適した医療を施すというのが、ゲノム医療の概念である。
ゲノムにまつわる病気は多々あることが分かっており、がんもその一つ。遺伝子異常との因果関係が明らかになっている。
がんが発生するメカニズムを大まかに説明したのが下図だ。なんらかの原因で遺伝子に傷が付き、その傷が時間の経過とともに増えることによって、正常な細胞が徐々にがん化していく。
がん化した細胞は急激に増殖し、やがて正常な細胞を駆逐。その結果、体内の器官が正常に機能しなくなり、自覚症状が現れてくる。
がんゲノム医療では、がんが生まれる最初の段階の「遺伝子の異常」に着目する。約2万個あるといわれる人間の遺伝子のうち、どの遺伝子に異常が起こるかによって、効果のある薬が異なることが分かってきたからだ。
これまでのがん治療は、胃がん、肺がん、乳がんなど、臓器別に効く薬が研究開発されてきた。現在の治療のガイドラインでは、例えば胃がんなら「1薬」を投与する、というふうに定められている。
しかし実際は、同じ胃がんでも、患者によって1薬の効果に差が出てしまう。多くの胃がん患者で有効性が証明された薬でも、一患者で見れば当たり外れが生じる。
がんゲノム医療では、同じ胃がんでも異常のある遺伝子が異なれば、効く薬も異なってくると考える。故に従来の臓器別から、遺伝子異常別という、より細分化された分類で治療を行うことになる(下図参照)。