ジョシュ・バーシン(以下、バーシン) 「企業と従業員のつながり」は、日本だけではなく世界中でますます希薄化していくと思います。私が大学を卒業した数十年前は、就職するにはまず新聞を見て社員を募集している企業を探し、履歴書を郵便で送り、電話でアポイントをとりながら、1社1社面接しなければなりませんでした。何段階もプロセスを踏まないと、そもそも就職に辿り着けませんでした。

 当たり前のように、採用する企業も、このプロセスに膨大な時間とコストをかけていました。ですから、入社して働き始めた場合、双方とも簡単に「辞めよう」「辞めてもらおう」という考えにはなりづらい。もちろん、それだけが理由ではないですが、世の中は今と比べると何事も緩やかに動いていました。

 しかし1980年代に入ると、情報技術や物流技術の飛躍的な進化や「株主資本主義」が強まり、M&Aなども活発化しました。そして「生産性向上」が企業経営のキーワードとなり、生産性に基づいた事業再編や人員調整が進み始めました。しかし、当初は誰を解雇すべきなのか、きめ細かく選別することが難しかったため、大半の企業は機械的なやり方で人員整理を行っていました。

 定期的な「社内評価」だけで、人員を絞るやり方ですね。

バーシン ええ。当時、多くの企業が従業員の「FORCED(強制的)ランキング」制度を導入していました。どのような制度かというと、毎年その時の社内評価で下位10%を自動的に解雇する仕組みです。そして、次の年も同じように下位から10%……と続けていく。強制的に生産性が低いと思われる従業員を組織から切り離し、社外から生産性が高いと思われる従業員を新たに採用しながら、会社全体の生産性向上を図る制度です。

 結局、その手法で持続的に成長できた企業はあったのでしょうか。

バーシン 国の産業構造が大きく変化する中で、壮大な社会実験となりましたが、このような社内環境では従業員が疲弊し、企業と従業員の関係性を構築する上では効果は薄く、結果、成長につながる企業もほとんどなかったことがわかってきました。

 そしてその後、企業と従業員との関係を考え直す動きが活発になりました。