配車アプリは、ただの車両手配にとどまらない。スマートフォン上で行き先の指定や決済などが行えるほか、周囲の車両の位置情報もマップで表示されるなど、その利便性の高さから都市部を中心に利用者が急増している。
また、タクシー側にとっても、人工知能(AI)によるマッチングで実車率の向上が見込める。
いまだ地方では電話による配車が一般的なため、「アプリでの配車は全体の数パーセントもない」(関係者)市場ではあるが、その成長性から各社が注力しているのだ。
競合が乱立する中にあって、各社の争いの焦点は二つある。利用者と、タクシー事業者の獲得だ。
12月、東京進出に合わせてDeNAが自社アプリのMOVで仕掛けたのが「0円タクシー」だ。
車両のラッピングやタブレットによる動画といった広告費によって運賃を賄う仕組みだ。初回は日清食品とタッグを組み、その費用の総額は「数億円ぐらい」(競合企業幹部)といわれているが、派手なキャンペーンで利用者の関心を一気に引き寄せた。
もちろんライバルも黙っていない。タクシーの最繁忙期である年末にかけて、DiDiは週末に初乗り料金相当が無料になるキャンペーンを実施、ウーバーも2500円の割引が最大10回使えるクリスマスキャンペーンを行った。
さながら広告費のバラマキ合戦だが、まずは利用者の認知を得るために、こうしたPR合戦を各社が繰り広げている。
絶対に落とせない事業者獲得合戦に
外資勢は苦戦中
だが、それらのインセンティブが消失した通常利用で不便さを感じてしまえば、せっかく集めた利用者も離れてしまう。
そのためにもう一つ重要なのが、タクシー事業者の獲得だ。「昨年後半ごろから、価格や条件面での提案合戦が激しくなっている」と、ある配車アプリ企業の幹部が打ち明ける。
一般的に、アプリの競争力は、供給台数に比例する。台数が多ければ多いほど、迅速なマッチングや利用者のカバーができるからだ。
それ故、各社はタクシー事業者の獲得に腐心する。配車アプリ側に支払うプラットフォーム使用料や手数料の“割引”や車載デバイスの無償提供などで、タクシー事業者を味方に付けようと必死だ。
だが、ここにきて苦戦しているのが外資勢である。
ジャパンタクシーは、既に全タクシーの3割を占める約7万台と提携するが、開始時期が異なるとはいえ、いまだ数千台にとどまる外資勢との差は歴然だ。
その背景には、海外でライドシェアを行う外資勢に対して、多くのタクシー事業者が根強い不信感を持っていることがある。
ライドシェアは、素人が運転をする「白タク」を指す。日本では現在禁止されており、タクシー業界も労働環境を脅かすとして、ライドシェア解禁に一貫して抵抗する。そのため、海外でライドシェアを手掛ける外資勢は、あくまで「ライドシェアは絶対にしない」と国内ではタクシーとの協力関係を強調し、事業の拡大を画策しているのが現状だ。