感情労働者はまるで“舞台役者”
「表層演技」と「深層演技」の違いも

 さて、感情労働では、上述のような職務的に求められる感情管理をいかにスムーズに行うかがキーポイントとなります。そのために用いられるのが、「表層演技(surface acting)」と「深層演技(deep acting)」と呼ばれる2つの演技方略であり、感情労働者は、対人業務という舞台に立つ役者ということになります。

「表層演技」とは文字通り、外から見ることができる表面的な感情表現の仕方を、仕事上で求められるものに変化させるような行為を指します。例えば、お客さんを目の前にしたとき、内心では「横柄な態度で嫌な客だな」と思っていても、本心を相手に悟られないように隠して、意識的に笑顔を作り出すような行為です。

 一方の「深層演技」は、内面的な感情の持ち方自体を職務上望まれるものへと変えることによって、仕事中の感情表現も変化させる方略です。少し難しいかもしれませんが、仕事における役割を理解し、役になりきるようなイメージと言えば分かりやすいでしょうか。

 例えば、「私は心が広いので、どんなお客様に対しても嫌だと思わずに笑顔で仕事をする」などと自分に言い聞かせて職務に当たるような行為が該当します。横柄な態度のお客様に当たったとき、「嫌だ」と思うのが本来の気持ちでしょう。でも、深層演技では仕事上の役割になりきることによって、「親しみ」などの別の気持ちを意図的に作り出すことになります。

「本来の気持ち」と「表情」のズレが
“燃え尽き症候群”を生みかねない

 これら2つの演技方略は、その場の状況や労働者自身の性格などに応じて使い分けられていると考えられますが、表層演技を使う際には少し注意が必要です。というのも、表層演技では、あくまでも表面上の感情のみを操作するため、必ずしも「内面で生じた本来の気持ち」と「仕事として外に出すよう求められる気持ち」が一致するとは限りません。

 もし、内心ではイライラしているのに笑顔を作らなければいけない場合、実際の感情経験と仕事上の感情表現には「ズレ」が生じます。このような感情の不一致状態を「感情的不協和」と呼び、これが感情労働者にとって大きなストレス要因であることが先行研究によって明らかになっています。